第40話 名前に込める想い

退院までの数日間、美香は病室で赤ん坊との時間をゆっくり過ごしていた。授乳やオムツ替えにまだぎこちない動作を繰り返しながらも、小さな命の存在はかけがえのない幸せを運んでくれる。


 ある夜、ベッド脇のソファに健一と結衣が座り、三人で赤ん坊を囲むようにして眺めていた。


「さて、この子の名前……そろそろ考えないとな」

 健一が言うと、結衣が小声で笑った。

「まだ“赤ちゃん”って呼んでるもんね。弟くん、そろそろちゃんと名前で呼びたいな」


 美香は赤ん坊の寝顔を見つめながら、そっと口を開いた。

「元気に生まれてきてくれたから……強く、まっすぐ育ってほしい。そんな名前がいいな」


「俺もそう思う」

 健一がうなずき、少し考えてから続けた。

「“れん”ってどうだろう。泥の中から咲いても清らかな花を咲かせるはすの花みたいに、どんな環境でも真っ直ぐに生きられるように」


 結衣は目を輝かせた。

「蓮くん……いい! 響きもきれいだし、弟にぴったり」


 美香は胸の奥が温かくなるのを感じた。

「蓮……そうね。強さと優しさ、両方を持って生きていける子になってほしい」


 三人の視線が眠る赤ん坊に注がれた。

「蓮くん、よろしくね」

 結衣がそっと弟の小さな手を握ると、まるで応えるように赤ん坊の指がきゅっと動いた。


 その瞬間、家族の間に新しい絆が芽生えたことを、誰もが確かに感じていた。

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