第16話 待つ日々
検査を終えた翌日から、美香の時間は遅く流れるように感じられた。
出社しても、資料をめくる手はどこか上の空。
会議で部長が鋭い指摘を飛ばすと、思わず返答が遅れた。
「佐藤さん、最近らしくないね」
同僚の一言が胸に刺さる。
けれども「妊娠している上に検査結果待ちで不安です」と打ち明けられるはずもなく、ただ「すみません」と笑ってみせるしかなかった。
昼休み、デスクの下でスマートフォンを握りしめる。
あと十日。
あと十日で答えが出る。
その数字を頭の中で繰り返すたび、胸の奥に重しがのしかかった。
家では、健一がいつもより早く帰ってくることが増えた。
「一緒に夕飯作ろうか」
「散歩しない?」
気を紛らわせようとしているのが伝わってきて、美香はありがたさと切なさを同時に覚える。
結衣もまた変化していた。
夕食後、洗い物を率先して手伝い、時には「ママ、休んでて」と声をかけてくる。
口数は少ないが、その不器用な優しさが胸に染みた。
ある晩、寝室で健一がぼそりとつぶやいた。
「どんな結果が出ても……俺たちは家族だ」
その言葉に、美香は涙をこらえきれなかった。
待つことしかできない日々。
不安と祈りが交互に押し寄せながらも、家族の小さな変化が、彼女を静かに支えていた。
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