2-12_検査結果

診察室に呼ばれた二人は、緊張した面持ちで椅子に腰を下ろした。

村田は無意識に膝の上で指を組み、ライトは落ち着かない様子で足をぶらぶらさせている。


医師は手元の書類を確認し、眼鏡を軽く押し上げて口を開いた。

「検査の結果ですが……お二人とも、ルクス病の兆候は見られませんでした」


その言葉が落ちると同時に、村田の肩から力が抜けていく。

胸の奥を締め付けていた不安が解かれ、深く長い息を吐いた。


「……よかった」

独り言のように小さな声が漏れた。


ライトはほっとしたように目を輝かせ、勢いよく身を乗り出した。

「じゃあ、シュンは大丈夫ってこと?」


「えぇ、村田さんは恐らくただの風邪かと。薬を処方しますので、食後に忘れず飲んでくださいね」

医師は柔らかな笑みを浮かべ、安心させるように言葉を添えた。


「ありがとうございます……」

村田は深々と頭を下げ、ただただ感謝の思いを口にした。


しかし次の瞬間、医師の表情が少しだけ硬くなる。

書類を指でとんとんと整えながら、言いにくそうに言葉を探した。

「ただ……血液検査の結果について、お伝えしておきたいことがございまして」


緊張が再び戻り、村田は息を飲む。


「まず、ライト君なのですが……常人の血液よりも遥かに多く魔素が含まれていることがわかりました」


「そ、それってまずいんじゃ……!?」

先ほどのルクス病の説明が頭をよぎり、思わず大きな声が飛び出す。


「いえ……彼はその多量の魔素と見事に共存できています。何も問題はありませんし、むしろこれは素晴らしいことなんですよ」

医師は手のひらを軽く上げ、なだめるような仕草を見せる。


「ねぇ、その魔素?が多いと何がすごいの?」

ライトは首をかしげ、小さな声で問いかけた。


「魔素とは、魔法の元となるエネルギーです。簡単に言えば、普通の人より沢山魔法を扱えるということですね」

医師は丁寧に噛み砕きながら説明する。


「へぇ、すごい!いっぱい使っても大丈夫なんだ!」

ライトの顔にぱっと笑みが広がる。


(確かに、今までライトが魔法を使って疲れているところを見たことないな……)

村田は心の中で妙に納得していた。


だが次の言葉で、また別の重さが胸にのしかかる。

「それで、村田さんなんですが……ライト君とは対照的に、全く魔素が検出されませんでした」


「……」

思わず息を詰める。


(あぁ、そうか……当たり前だけど、やっぱりそうなんだな)

改めて、自分がこの世界の人間ではないという事実を突きつけられたような感覚に襲われる。


「それは……その、珍しいんですか?」

質問しながら、声はわずかに震えていた。


「魔素が一切含まれていない、というのは普通は考えられません。誰しも少なからず保有しているものですので」

医師は慎重に言葉を選びつつも、率直に答える。


「ただ今回の検査は簡易的なものですので、正しく検出されなかった可能性も十分考えられます。なので……」


村田は唾を飲み込み、無意識に背筋を強張らせる。


「メガラニア総合病院宛ての紹介状をお渡しします。もし体調が戻らない場合はそちらで診断を受けてもらえますか?」

医師は誠実な眼差しで告げた。


「精密検査もできますし、何よりその分野の専門医も在籍していますので」


村田はうなずきながらも、心の奥底でざらりとした感覚が広がっていくのを抑えられなかった。

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