第13話 フィギュア
翌日、学校はアヤカが飛び降りた一件でもちきり、になるはずだった。いくらアヤカが嫌われ者でも、一方では目立つ存在でもあり、飛び降りとなればなおさらだ。
ところが学校の話題をさらったのは、別の女子生徒だった。
「おい、あのアニメみたいな子、見たか?」
「あんな可愛い子、うちの学校にいたっけ?」
「ねえねえ、あの栗毛の子って誰?」
「なんかクォーターっぽいし、転校生なのかな?」
突如として現われた謎の女子生徒に、誰も彼女の正体を分かっていなかった。
「
「え、誰?」
「ふふーん、誰でしょう?」
栗毛のミディアムボブが似合う彼女は、かなり小柄。半袖の夏制服から伸びる腕の細さが目立つ。そして何より目を奪うのは、大きく盛り上がったその胸だ。
ただ顔つきがクォーターっぽいからなのか、出来の良いフィギュアを見ているかのように、全体のバランスには自然さすら感じられる。こんな美少女、ウチの高校にいたっけ?
「この髪、ウィッグなの。『魔法使いサリー』っぽくない?」
「サリー? サリー……さりい……って、あなた
「えへへぇ、今日からイメチェンしてみました。似合ってるかしら?」
そりゃあ似合っているかどうかで言えば、めちゃめちゃ似合っている。
伊達メガネを外し、ウィッグを着けただけで、こんなにも可愛くなるものなのか?
ってか、女子用の制服も持ってたんだ。
「本当は黒髪が良かったけど、ちょうど良い長さのウィッグがこの色しかなかったの」
「まあ、似合ってるからいいんじゃない? ウチの学校は髪色自由だし」
「今まではね、あえて顔を薄くするメイクにしてたんだ。今日は学校だしベースメイクしかしてないけど、何も飾っていない自分を解放できて、気分もスッキリしてるわ♪」
「胸のほうはあまりスッキリしてなさそうだけど」
「だってこれがボク自身でしょ。揺れると痛いから、これでもちょっと押さえてるんだけど、昨日までと違って苦しくないし、ラクだよ」
「昨日までは、胸を見られるのがイヤなんじゃなかったっけ?」
「ジロジロ見たい人は、勝手に見ていれば? って感じかな。むしろ、可愛い自分を隠しているのがもったいないって思っちゃった」
自分で自分を可愛いという女子は、自意識過剰と思われがち。でも
ってか、見た目はイメチェンしても、僕っ子キャラは変えないんだな。
「あのさ、イメチェンは良いと思うけど、昨日の一件、私は許してないからね」
「アヤカのことよね。学校が終わったら病院に行って、謝ってこようと思う」
「えっ、反省してるの?」
「うん。だって、痛い思いさせちゃったんだから」
「でも彩理衣が飛び降りさせたとは言えないし、伝えたところでアヤカ自身も信じられないんじゃないかな」
「でもボクのほうも、アヤカを挑発してたから。それを謝るのはありでしょ?」
「あ、うん、彩理衣が謝りたいっていうなら、それがいいと思うよ」
だが彩理衣自身はアヤカに謝るそうだし、そうなったら第三者の私が怒り続けるのも筋が通らない気がする。なんだかんだ言って生徒会長だし、人並み以上の常識は持ち合わせているはずだ。ここは彩理衣の良心を信じるべきなのかもしれない。
「昨日は杏未那とも闘いそうになっちゃったけど、それもゴメンね。このチカラはあくまで自分を守るためのものだから、無駄遣いしないようにする」
「シコスタで刃物男をやっつけたのも、自分を守るためだったんだよね?」
「アイツは最低なヤツなんだよ。ボクだけじゃなく、他のレイヤーさんにも暴力をふるった前科があるの。触られた子も何人もいるし、今回は刃物を持っていたからボクも怒りを抑えることができなかった。この気持ちは杏未那も分かってくれるよね?」
「まあ刃物となったら、さすがにね」
「あとね、杏未那には感謝してるんだ。あの時、私の聴覚に乗っかろうとしてくれたから、アイツに気が付くことができた。だから杏未那は命の恩人なの。本当にありがとう!」
そういって彩理衣が抱きついてきた。こうやって気持ちを伝えてくれるのって、嬉しいな。
それにしても身体が直に触れていると、やはり胸の大きさに驚かされる。昨日は武蔵と抱き合っていたけど、これじゃ武蔵のアソコもただでは済まなかっただろう。
ん、武蔵って……。
そうだ! 武蔵を巡って彩理衣と
「ご心配ありがとう。こんなんじゃ不利にならないから、大丈夫よ」
「ひょえーっ! 佳央里いたの!?」
「最初っからいたし、全部聞いてたよ」
「彩理衣、ずいぶんと可愛くなったじゃない?」
「ありがとう♡ 佳央里にそういってもらえると自信がつくわ」
「昨日、武蔵クンとハグしたんだって?」
「うん。杏未那から聞いたの?」
「そうよ。でも悪いけど、武蔵クンは私のことが好きみたい」
「あら、そうなの? 昨日はボクのこと、最高に可愛いって言ってくれたよ」
「私のことは、天使だって言ってくれたの」
「そうね、佳央里は天使みたいだもんね」
「へえ、そこは認めてくれるんだ」
「天使って、人間とは関わり合いにならないでしょ」
「どういう意味よ?」
「だから武蔵くんはボクを抱きしめてくれたんだよ、人間のボクを」
「武蔵が好きなのはあなたじゃなくて、あなたのおっぱいじゃないかな」
【うっそーっ! あの上品な佳央里が「おっぱい」って言うだなんて。それって絶対に嫌みを込めているよね。これがいわゆるバチバチってやつ?】
ハラハラドキドキしながら、二人の会話を見守る杏未那。
「そうよ、このおっぱいもボクの大事な一部。ここが好きならボクを好きなのと一緒だよ」
そう言って、彩理衣が胸をグイッと突き出す。昨日までの男装では考えられなかった態度だが、コスプレイヤー
キーンコーンカーンコーン♪
始業のチャイムが鳴る。彩理衣と佳央里のニラみ合いもいったん休戦だ。
杏未那としては正直なところ、
こういう場合はいっぺん、ライダー同士で相談が必要ではないか。しかし彩理衣と佳央里、そして武蔵の3人は当事者だから、ここは蒼汰と私で話をするしかなさそうだ。ちょうどお見舞いに行きたいと思っていたし、放課後になったら病院に行くことにしよう。
とはいえ、その前にひと悶着あるのは確実。昼休みになったらきっと、武蔵がおにぎりを手に、こっちのクラスに顔を出すはず。なにしろ佳央里と彩理衣が揃っているのだから、彼にとってはハーレムも同然だ。そこに私が同席しててもいいのかしら?
【いいよ。むしろ杏未那には、審判役になってほしい】
【ちょっと佳央里! 授業中は聴覚ライドを閉じてくれる?】
【まだ慣れてないから、閉じ方が分からないのよ】
【ああ、昨日、身に付けたばかりだったよね。悪いけどそこは自分で努力して】
【分かった。頑張ってみる。でも彩理衣はオーバーライドが使えるんだから、私のほうもこれくらいの武器はあってもいいでしょ?】
【彩理衣はチカラを封印するって言ってたよ。そもそも恋愛なんだから、力づくでどうこうする話じゃないんじゃない?】
「我妻! ちゃんと聞いてるのか?」
英語教諭の小言が飛んできた。授業中に杏未那を指していたのに、佳央里との聴覚ライドトークに夢中になっていて、先生の話を聞いていなかったのだ。
二人と違って聴覚ライドトークができない彩理衣は、杏未那を見てくすくす笑っている。彼女にこの能力がなくてよかった。
もし3人ともライド能力で会話できるなら、授業中もずっと言い争いをしていたに違いないだろう。
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