第109話 休日と魔法開発
朝のルーティーンが完全に確立してしまった。
ニワトリにご飯と水をやって、カラスに酒を置いておく。奥の祠にも酒とご飯をお供えして、榊に水を出してやったら終わりだ。
秘密基地でコーヒーを飲みながら、ランタンの揺らめきをぼんやり眺める。
「……まあ、できる範囲で頑張ろう」
今日は休み。
前回の休みはパチンコに行ったけど――さて、今日は何をしよう。
どうせなら、魔法でどこまでのことができるのか試してみたい。
魔法っていうとちょっと違うけど、俺のイメージは昔アニメでよく見た必殺技。
子どもの頃に「かめ◯め波」とか真似してたな……。
今なら本当にできるんじゃないか?
《検索の結果、かめは◯波は再現可能です。ただし失敗すれば大爆発で焦土と化すでしょう。検証しますか?》
「よし。やめよう。絶対やめとこう。安全第一でバレないことが最優先だ」
《了解しました。か◯はめ波は現状での必要性はあまりありませんが、飛行魔法や瞬間移動は有用性が高いと考えます》
「確かに空飛べたり瞬間移動できたら、絶対便利だよな」
《はい。力が露呈した時の逃走手段としても有効です。ただし、レーダーや衛星、防犯カメラには映ります》
「……逃げても逃げても、国とかが相手だと見つかる可能性があるってことか。俺は何を相手にしようとしてるんだ? はははっ」
《極めて高い癒し効果のある酒が露呈した場合、各国が放置するとは考えにくいです》
「……現実的に考えて、確実に狙われる。最悪、殺されて奪われるまであるな」
《最悪を想定して動くことをオススメします》
「ひぃばぁちゃんの手紙は、こういうことか。少しは理解してたつもりだったけど……まだまだ甘かったな。しかも実際に酒が手元にあるし……のんきに休んでる場合じゃないってことだ」
《社畜耐性が限界突破しました。適度な休息をとってください》
「言ってることが矛盾してるぞ!! 社畜から卒業できたと思ったのは気のせいだったのか」
《やるかやらないかは太郎さん次第です。AIアシスタントとしてサポートはお任せください》
「……そんなの、やるしかないだろ。とりあえずは逃走手段として、飛行魔法を練習しよう。瞬間移動は難易度高そうだしな。……でも、落ちたら死ぬよな」
それで、魔法で空を飛ぶって昔からよく見てきたから、イメージはできるんだけど。
原理がイマイチ理解できない。
魔力を行きたい方向に放出したら、いけるのか?
《太郎さんはスーパー◯イヤ人みたいに飛びたいですか? それとも空飛ぶ絨毯のほうがいいですか?》
「アニメのことばかり考えてたから、空飛ぶ絨毯の発想は無かったな。……どっちがいいと思う?」
《空飛ぶ絨毯なら、太郎さんはすでに飛行可能です》
「えっ?! 俺、空飛んだことないけど??」
《売家の屋根修理の時に、念動魔法で屋根に登っていますし、秘密基地への移動もある意味では飛行魔法です》
「……早く言ってくれよ!!」
《聞かれませんでしたので》
「……まぁいいや。よく考えたら、確かに飛んでるってことになるのか」
《横移動に関しても念動魔法で可能ですが、結界魔法を応用して移動させることでも可能です》
「結界魔法の方が使い慣れてるから、そっちのほうがいいな。……でも結界を動かすって考えると、あれ? 常時発動の結界って、ずっと動いてるじゃねーか」
《はい。常時発動の結界に強度を持たせれば、体ごと浮かせることが可能です》
「……まぁ、やってみるか。とりあえずは結界だけで動かせるか、実験だな」
そんな時、不意に頭の中へ声が響いた。
『また面白そうなことをやろうとしておるの。お主を見ておると飽きないから良いな。ほら修行じゃ、励めよ』
「……カラス!? 見せ物じゃないけど、アドバイス頼むぞ」
――なぜか練習に、カラスまで参戦してきた。
地面に浮かせたのは、俺の体じゃなく――魔力で作った小さな結界だ。
透明な箱みたいなものが、ゆっくりと空中に浮かんでいる。
『ふむ……ようやく形になってきたな。だが、その程度では風に煽られただけで崩れるぞ』
頭の中に直接響くカラスの声。
相変わらず偉そうだが、間違ってはいない。
結界は浮いてはいるが、グラグラしていて、頼りない。
《強度が不足しています。魔力の密度を上げ、外殻を補強してください。空気中の圧力を想定すれば、耐久性の調整が可能です》
「……やっぱり理屈で言うと難しいな。イメージ的には?」
『石を積み上げるように、ぎっしりと詰めるのだ。スカスカの籠で空を飛ぶ気か?』
「なるほど……」
俺は結界の外殻を厚くするイメージを強く念じた。
すると、透明な箱の縁がピシッと光を帯び、輪郭がよりはっきりしていく。
浮遊の安定感も増した気がする。
《強度は二倍以上に向上しました。次は可動実験を行いましょう》
『そうだ。止まっているだけでは修行にならん。動かしてみよ』
「わかった……前へ!」
意識を向けると、結界はノロノロと前に進んだ。
……が、そのスピードは亀以下。
「遅っ!」
《出力が弱すぎます。魔力の流れを線ではなく面で押し出すイメージに切り替えてください》
『もっと豪快にやれ。小川の水ではなく、滝を流すのだ!』
「滝ねぇ……」
俺は両手を前に突き出すような感覚で、結界全体を押すイメージを持つ。
すると、箱は一気にシュッと加速した。
「おお! 速い!」
勢い余って結界は地面にゴンッとぶつかり、跳ね返った。
「うわっ、危ねぇ!」
『ほれ見ろ。制御が甘いわ! 力を入れすぎれば暴走するのは当たり前じゃ』
《安定性と速度の両立が課題です。魔力量の細分化が必要です。呼吸と同調させて調整を》
ふう、と息を吐き、俺は再び結界を前に進める。
今度は速度を落とし、ゆっくりと地面すれすれを滑らせるように。
カラスが満足げに鳴いた。
『ふむ、そのくらいなら実用性があるな。だが上昇がまだだ。もっと高く!』
「了解……上昇!」
意識を切り替えると、結界はふわりと二メートルほど浮き上がる。
強度が増したおかげか、安定している。
《飛行プラットフォームとしての基礎は整いました》
『よし、その上で練習を重ねろ。思い通り動かせるようになれば、お主も空を歩けるわ』
俺は汗を拭いながら、浮かぶ結界を見上げた。
――ここに入るのか。
まだ怖いが、確かに形にはなってきた。
完成まではもう少しだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます