第62話 強度アップでも見た目は中二病



ショートスリープで二時間だけ眠った。

……どこか遠くでコケコッコー!


「……ニワトリ、朝早すぎない?」


目覚ましよりも早いのはどうなんだ。

でも不思議と体は軽い。


「ショートスリープ二時間。もうすっかり慣れちまったな……。

社畜ライフのおかげで、睡眠まで効率化するとは思わなかったけど」


……効率化っていうか、ただの社畜仕様だな。



コンビニで買ったおにぎりと缶コーヒーで朝食を済ませ、気合いを入れる。


「リク! 早速改築を開始しようか!」


気合十分に声をかける俺に、リクは冷静に告げた。


『太郎さん、問題点があります』


「え?」



『まず初めに。現在この建物は耐震性能が著しく低下しています』


「……は?」


『当時の耐震基準で建てられているため、リペア魔法では補修はできても、現行の耐震基準には届きません』


「えっ、それって……魔法でどうにかできないの?」


『不可能ではありません。ただし検証が必要です』


「検証って、どうするんだよ」



リクはさらっと答えた。


『手法の一つは、分子・結晶構造をイメージすることです。

魔力を素材の分子に行き渡らせ、魔力と結合させて結晶化する方式です』


「……中二感あるなぁ」


『結晶化すれば外部から魔力を供給しなくても安定して残ります。

したがって半永久的に強化可能です。

現実で例えるなら、“樹脂でコーティングして固める”の魔法版です』


「……あ、イメージしやすい。なるほどな」



そういえば、ゴミ捨て魔法の練習中に壁をくり抜いた残骸があった。

あれで試せばいいか。


「よし、いざチャレンジ!」


魔力を壁材に流し込む――。


――バラバラバラッ!


砂みたいにサラサラと崩れ落ちた。


「うわあ!? え、なんで!?」



二回目。

「結晶化しろ……!」


――ぷにぷに。


手で押すと粘土みたいに柔らかい。


「なんだよこれ!? スライムか!?」



三回目。

「今度こそ……!」


集中して魔力を沈殿させると、じわじわと黒い光が広がり、壁材が真っ黒に変色した。


「……おお? 今度は崩れない」


スキャン魔法で内部を覗くと、細かい隙間が黒い結晶でぎっしり埋め尽くされていた。


『解析完了。素材の密度は元の二倍以上です』


「マジかよ……!」



試しに普通の壁材を身体強化で握り潰す。

バキバキッと音を立てて、あっさり粉々になった。


「ほらな、元のはこんなもんだ」


次に黒く変質した方を掴む。

ぐっと力を込めても――びくともしない。


「……カッチカチで全然壊れねぇ!」


思わず笑ってしまう。


「これ、成功でいいよな!? 黒いけど!」


『強度的には理想的な補強です。……ただし、デザイン的には致命的です』


「だよなぁ……まぁ名前は“強度アップ”だ」


『……安直すぎます。正式名称は“結晶硬化”にしておきます』


「いいじゃん、強度アップで! 子供でも分かるし!」



「さて、まずは地下室からだな」


足を踏み入れると、ひんやりとした空気がまとわりつく。

独特の湿気の匂いに、思わず顔をしかめた。


「うっ……そういえば前に覗いたとき、水漏れとカビがすごかったんだった。

RCの地下は湿気こもりやすいからな……配管まわりが怪しいか」


壁の隅は黒ずみ、天井には水滴の跡が残っている。

このままじゃ倉庫どころかキノコ畑になりそうだ。



「リク、まずは構造チェックだ」


『了解。スキャン魔法を発動してください』


俺は手をかざしてスキャン。

壁の内部まで湿気が染み込み、微細なひび割れが網目のように広がっていた。


「うわぁ……見た目以上にボロボロじゃん」



『ではまず、クリーンで徹底的に清掃を』


「おっけー!」


魔法を発動すると、床や壁を覆っていたカビが一瞬で消え去った。

鼻を突くようなカビ臭さも、すうっとなくなる。


「おおっ……新品みたいだな」



『次にリペアで損傷部分を修復してください』


「はいはい、リペアっと」


ひび割れが塞がり、欠けた壁材が元の形を取り戻していく。

見た目だけなら、もう十分きれいな地下室だ。



「よし、仕上げは“強度アップ”だ!」


魔力を沈殿させる。

じわじわと黒い光が広がり、壁材が――真っ黒に変色した。


「……まっ黒かよ!」


叩いてみると――カンッ、と鉄板みたいな音が返ってきた。


『判定――成功。金属並みの硬度です』


「……いや、強すぎるだろ!」



壁を見渡すと、そこには真っ黒な結晶の層。

強度は完璧なのに、見た目は完全に厨二病のアジト。


「……まあ地下だからいいけどさ。これ地上でやったら完全にヤベーやつだよな」


『強度的には理想的ですが、デザイン的には致命的です』


「うるさい!」


こうして俺のリノベ第一歩――地下室は、強度は最高、見た目は中二という謎の仕上がりになった。

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