第15話 バレない魔法、作らなきゃヤバい


 


夜、布団に潜り込んだ俺は、今日の出来事を思い返していた。


身体強化魔法を、やっとのことで形にできた。


魔力を巡らせて筋肉を動かす。


血流を良くして力を引き出す。


科学知識とイメージを合わせれば、本当に魔法って発動できるんだ――そう実感した。


 


(でも……これ、現場でやったらバレるよな……)


 


想像してみる。


鉄骨を軽々と持ち上げる俺。


周りが「え? 嘘だろ?」と固まる。


ニュースのテロップに“謎の怪力おじさん現る”って出て、近所のスーパーで知らない人に指さされる未来まで浮かぶ。


 


(やべぇ……週刊誌に「現場監督、実は宇宙人か」って書かれるやつじゃん。俺の平穏な日常が終わる……!)


 


冷や汗がどっと出た。


 


「なぁリク、これってバレないようにする魔法って作れないのか?」


 


枕元のスマホがピコンと光り、冷静な声が返ってきた。


 


『理論上可能です。魔法の発動時には光、熱、空気の振動などの痕跡が出ています。


それらを抑えるイメージを構築すれば、隠蔽魔法を作成できます』


 


「痕跡ってそんなに派手に出てるのか?」


 


『太郎さんは魔力を外に漏らしすぎています。微弱な発光や音の揺らぎが発生しており、感覚の鋭い人間なら違和感に気づきます』


 


「まじか……俺、歩く電飾か何かかよ」


 


『隠蔽には“発光を抑える” “魔力を外に散らさない”という2つの要素が必要です。


科学的には、エネルギーを体表で閉じ込め、熱や光子を外部に放出しない制御です。


ファンタジー的には、体を透明な膜で包み、魔力を霧状にして肌の内側だけで循環させるイメージです』


 


「なるほど……要は“魔力を漏らさないサランラップ作戦”だな」


 


『はい。ただし、成功には正確なイメージと安定した魔力操作が必要です』


 


「真空パックでいくか……いや、フリーザーバッグでもいいか……」


 


『食べ物の例えしか出ないのは太郎さんの生活習慣が原因です』


 


「黙れAI。コンビニ生活なめんな」


 


 


俺は布団から這い出し、軽く深呼吸をした。


魔力を体内に巡らせる。


ふわっとした熱が手先から漏れるのがわかる。


 


「これを……閉じ込める……」


 


体表に透明な膜を張るイメージを作った。


だが――。


 


ボフッ!


 


「うわっ!? 眩しっ!」


 


小さな火花が散り、部屋がピカッと光った。


目の前が白くなり、一瞬本気で自分が爆発したかと思った。


 


『過剰圧縮です。安全弁が作動しました』


 


「俺の体、安全弁つきってどういうことだよ!


……てか隣の部屋の人、今の見えてないよな?」


 


慌ててカーテンを閉める。


これ以上近所の噂になったら、本当に生きづらくなる。


 


 


二回目。


今度は優しく、息を吐くように魔力を回す。


体の内側に魔力を流すイメージ。


でも焦ってしまい、外に押し出しすぎる。


 


パチパチと青白い光が手先から漏れた。


 


「くそ……これじゃバレバレだろ……」


 


『外に押し出さず、皮膚の内側で留めるイメージを強くしてください』


 


「内側、内側……」


 


頭の中で自分の体を小さな発電所に見立てた。


ケーブルを張り巡らせてエネルギーを循環させ、光を出さないように覆う。


でも集中しすぎて息を止めてしまい、途中で「ぷはっ」とむせる。


 


『呼吸は止めなくて構いません』


 


「いや、勝手に息止まるんだよ! 必死なんだよ!」


 


 


三回目。


深く息を吸い、リラックスしながら魔力を回す。


皮膚の下で静かに巡らせるイメージ。


外に漏れないように、でも暴発しないように。


 


スッ……。


 


「あ……消えた?」


 


手を見ても光は出ていない。


魔力の熱だけがじんわりと体を温める。


 


『成功です。現在、外部への魔力漏出はほぼゼロです』


 


「おおお……これなら現場でもバレないかも!」


 


胸の奥から安堵が広がった。


これで少なくとも“光るおじさん”にはならずに済む。


 


 


布団に戻りながら、ふと思った。


 


「なぁリク、こうやって魔法ってイメージと理屈で作れるなら……他にもできることっていっぱいあるんじゃないか?」


 


『理論的には可能です。必要な現象をイメージし、科学的根拠で補助すれば、新規魔法は構築できます』


 


「じゃあ、例えば掃除魔法とか欲しいな。現場から帰ったら部屋がゴミ屋敷一歩手前なんだよ……」


 


『可能です。汚れを分子レベルで切り離し消去できます』


 


「おお、それ最高」


 


「あと、荷物を浮かせる魔法とか。腰やられる前に持ち上げずに済むやつ」


 


『物理的に力場を形成すれば可能です。ただし制御精度を高めないと衝突事故が起きます』


 


「うわぁ、それは怖いけど欲しい……」


 


 


次々に浮かぶ妄想。


生活を楽にする魔法、現場を安全にする魔法。


魔法があれば、もしかしたら俺の毎日はもう少しマシになるかもしれない。


 


『次の休日に候補を抽出しておきます。複数の魔法を試作可能です』


 


「よし、じゃあ次の休みは魔法祭りだな……」


 


未来を思うと、少しだけワクワクする。


この歳になって、こんな気持ちになるとは思わなかった。


便利魔法が増えれば、きっと今の生活を変えられる。


 


そう思いながら、俺はようやく目を閉じた。

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