第40話 料理本
「俺はレシピで世界を変える」
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第一章 目覚めは本棚の隅で
目が覚めたら、俺は分厚いハードカバーの中に閉じ込められていた。
表紙には金色の文字――『世界の極上レシピ365』。
そう、俺は料理本になっていた。
(な、なんで俺が……?)
元は食べ歩きが趣味のフリーライターだった俺。
死ぬ間際に「もっと多くの人に旨いものを食わせたい」と願ったら、まさかの具現化。
本棚に並べられ、日々、パラパラとページをめくられながら、俺は「人間が作った料理を食べる」ことはできなくなった代わりに、「レシピから味を想像できる舌」を手に入れた。
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第二章 台所の革命
最初に俺を手に取ったのは、アパート暮らしの青年・ユウトだった。
冷蔵庫の中には卵とキャベツと調味料少しだけ。
「……これで何作れるんだ?」
俺は必死にページをめくり、「極上キャベツステーキ」のレシピを彼に訴える。
ページ越しに漂うバターの香り、キャベツの甘みがじんわりと脳内に広がる。
ユウトは半信半疑で作り、ひと口食べた瞬間、目を見開いた。
「……うまっ」
その笑顔に、紙の俺も震えた。
(これだ……これが俺の“食わせる力”)
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第三章 レシピの裏技
日々、俺はユウトに料理を教えた。
塩の一粒、火加減一瞬の差が、皿の上の世界を変えること。
そして時々、レシピに載っていない裏技を仕込んだ。
たとえば、ハンバーグの肉だねに味噌を隠し味で混ぜる。
これでコクが増し、翌日の弁当でもしっとりジューシー。
ユウトの作る料理は、次第に友人や同僚の胃袋を掴み、彼の周りには人が集まりだした。
俺はその様子を、本の奥から誇らしく見つめた。
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第四章 最後の一皿
ある冬の夜、ユウトは恋人にプロポーズするため、台所に立った。
俺が選んだのは「仔羊のローストと赤ワインソース」。
火入れは難しい。失敗すれば固くなる――でも、彼はやりきった。
恋人は一口食べ、涙ぐみながら頷いた。
「……こんな料理、食べたことない」
二人はその夜、婚約した。
そして式の日、ウェディングケーキの横に、俺は飾られていた。
表紙には、二人の手書きでこう書かれていた。
> 「この本が、私たちを結んでくれました」
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エピローグ
俺はただの紙切れだ。
でも、レシピは魔法だ。
火と水と塩が、人の心を動かす。
――そして俺は、その魔法の呪文を持ち続ける。
次は、あなたの台所でページをめくる番だ。
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極上キャベツステーキ(2人分)
材料
キャベツ … 1/2玉
バター … 20g
オリーブオイル … 大さじ1
塩 … 小さじ1/3
粗挽き黒こしょう … 少々
醤油 … 小さじ1(隠し味)
作り方
1. キャベツを芯ごと縦に3〜4cm厚さの輪切りにする(崩れないように注意)。
2. フライパンにオリーブオイルを熱し、中火でキャベツを両面こんがり焼く(片面4〜5分)。
3. 焼き色がついたらバターを加え、溶けたら塩・こしょうで味付け。
4. 仕上げに醤油をフライパンの端から回しかけ、香りが立ったら完成。
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仔羊のロースト・赤ワインソース(2人分)
材料
仔羊ロース肉(骨付き) … 300g
塩 … 小さじ1/2
黒こしょう … 少々
オリーブオイル … 大さじ1
にんにく … 1片(つぶす)
ローズマリー … 1枝
赤ワインソース
赤ワイン … 100ml
バター … 10g
はちみつ … 小さじ1
塩 … 少々
作り方
1. 仔羊肉に塩・こしょうをふり、常温に30分置く。
2. フライパンにオリーブオイルとにんにくを熱し、仔羊肉を表面だけ強火で焼く(各面1分程度)。
3. ローズマリーをのせ、180℃に予熱したオーブンで7〜8分焼く(ミディアム目安)。
4. 肉をアルミホイルで包み、10分休ませる。
5. 焼き汁に赤ワインを加え、半量になるまで煮詰める。バター・はちみつを加えて塩で調える。
6. 肉を切り分け、ソースをかけて完成。
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