第25話 のこぎり

『戦鋸(せんのこ)』


気がつくと、俺は鋭い歯を持つ銀色の刃になっていた。

手には木の柄。

刃のひとつひとつが、まるで猛獣の牙みたいにギラついている。


「おお……こいつはいい武器だ」


俺を握ったのは、筋骨隆々の傭兵リガルド。

その目は、戦場の匂いを嗅ぎつけた獣の目だった。



---


戦場に着くや否や、俺は唸りをあげた。

ギコギコという鈍い音じゃない。

俺の刃は、鋼鉄の鎧すら削る悲鳴をあげた。


「おらあああああっ!」

振り下ろされる度、鎧は真っ二つ、盾は粉砕。

剣や槍がぶつかってくるが、俺は回転しながら敵の武器を噛み砕く。



---


「おい、ただののこぎりじゃないのか!?」

敵兵が怯えた声をあげた。


ただののこぎり? 笑わせるな。

俺は切断の化身、戦場の咆哮。



---


敵将が巨大な戦斧を構えて迫ってきた。

リガルドが踏み込み、俺が全力で刃を噛ませる。

ガリィィン!!

火花が散り、戦斧の柄が真横から裂けた。


そのまま勢いを止めず、俺は敵将の胸当てを削り、背中まで貫通。

血しぶきではなく、戦場の空気が裂ける音が響く。



---


戦が終わったとき、俺の刃はさらに鋭くなっていた。

「お前、戦場が似合うぜ」

リガルドが笑う。


俺は確信した。

この刃は、戦が終わらぬ限り鈍ることはない。

切り裂くために生まれ、切り裂くことで生きる──

それが、俺だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る