今日も魔王城は平和です

高久高久

第1話

 ――この世界に、様々な種族が存在している一つの大陸があった。

 嘗て、種族間に垣根は存在せず互いに助け合ってきた。

 しかし何時の頃からか、ある種族――人間と魔族が争い始めるようになった。

 他の種族にはない強大な力、魔力を用いる魔族。対して、魔族以外の種族と手を取り合い立ち向かっていた人間。

 争いは長きに渡り続いたが、ある時に人間の中から【英雄】と呼ばれる存在が現れた。【英雄】は人間が本来持たない強大な力を持っており、その力で魔族の王――魔王を討ち取り、人間側の勝利という結末で終止符は打たれた。

 その後、時代と共に魔王が復活し世界に混乱をもたらすも、その度に【英雄】が現れ打ち倒す。人間と魔族の争いは幾度となく繰り返され、終わる事は無かった。


 この時代にも、魔王の存在は確認されている。

 だが、未だ【英雄】の存在は確認されていなかった。


 ●


 ある所に、村があった。都から離れた僻地にある、人間達の村だ。

 その小さな村は、全てを自給自足で賄っていた。行商人が訪れることが無いからだ。

 いくら小さい村でも、都から離れていたとしても行商人は少なからず訪れて交易をするのだが、この村にはそれがない。

 交易だけではなく、この村には名前も無かった。存在に関しても、人間達の間では知らない者も多く、知っていても『ああ、そんな村あったな』程度の認識だ。

 それもその筈。人間の間では、その村はもう滅んだ物として扱われているのだから。

 この村は僻地に存在している。そしてすぐそばに、城が――人間のではなく、魔族の城があった。

 その城には、魔王が存在する事が確認されている。その為、その村は見捨てられていた。人間達の間で魔族――特に魔王は残虐非道の存在として認識されている。

 魔族にとって人間は抹殺対象。人間であるから、というような理由で。

 そんな魔族の城の傍にある村など、もう滅ぼされてしまっているに違いない。そう思われていた。

 しかし、真実は違った。

 村は、村人は、まだ生きていた。


 ●


 村の近くにある森を、少女が歩いていた。まだ幼い、肩位までの長さの金髪の少女だ。この少女は名もなき村の住人であり、名をユウという。

 日はまだ明るい筈だが、鬱蒼たる森に遮られ薄暗い。そんな中でも、少女は躊躇う様子も無く歩いており、やがて森を抜けた場所に出た。

 ――そこに、城があった。人間達にとって恐怖の象徴である、魔王の居城が。

(お城に行ってはいけないよ)

 そびえ立つ城を見上げるユウの頭に、ふと母親の言葉が浮かぶ。が、首を傾げただけで、すぐに足を城へと向けて歩き出す。

 城の入り口に、像が立っている。背に蝙蝠のような羽と、頭に角を生やした怪物の像が、入り口の両脇を門番の役割を果たす様に備えられていた。


「う! こんちゃ!」


 今にも動き出しそうなその像達に、ユウは挨拶するかのように手を挙げてからそのまま城の中へと入っていく。


「報告、だ」

「報告、しなくちゃ」


 ユウが城に入った後、像が動き出し言葉を発した。

 そして、背の羽を動かして何処かへと飛んでいった。

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