第10話 シュクの絶望

 巨大な狐を地面に打ち付けて、シュクが思うこと。


(早く片付けないとな)


 それは、怒りだった。


(あー、もう。本当にどこに行きやがったんだ? 獣系の魑魅魍魎を集めているんなら、いると思ったんだけど……美味しそうな餌とかあるとフラフラついていくからな。意外と、公園の近くにいたのか? こいつら片付けたら、戻ってみるか。たしか、私の荷物は置きっぱなしだったし)


 怒りといっても、狐達にではない。


 いまの事態はシュクにとってはただ予想が当たっただけであり、特に困ったことではない。


 たとえヒグマを食い殺すことができるような獣に囲まれていても、シュクにとっては問題はないのだ。


 なので、問題は一つ。


(イザナギは平和って話だから、荷物も無事だろう。修羅の国だったらすぐに盗まれるけど。でも、開けっ放しで出たのは不味かったか? まぁ、見られて困るような……困るような……ああ!?)


 いや、二つあったようだ。


(下着! スーツケースの見える位置においていたかもしれない! あああ!? ちょっと待て、気になってきた! まじで今すぐ公園に戻らないと……)


 何事にも無頓着なシュクであるが、流石に下着が公衆の面々に見える位置で置かれているのは恥ずかしい。


 ちょうど、囲んでいた最後の狐を打ち倒したシュクは、狐達の大元が取り憑いている巫女服を着た男の方を振り向く。


「ちょっと用事が出来たから、さっさと終わらせるぞ? 何、心配するな。お前の御神体がどこにあるかは目星はついている。神社の裏にある小さな鳥居……だろ?」


「あ、ああああ!?」


 巫女服を着た男が目に見えて焦りだす。


「こういった神社には本殿以外にもいくつか小さな社で神様を祀っていることがあるからな。そういったところにいる御神体が暴走することはよくあることだ。まぁ、悪いようにはしないから安心しろ。ちょっと壊して成仏させるだけだ」


 シュクがハンマーを構えると、巫女服を着た男から、大きな狐が飛び出してきた。


 その狐は、先ほどシュクが倒した狐よりも大きい。


「大きければ勝てると思ったか? 悪いけど、この程度じゃ……」


「うわっ!?」


 巫女服を着た男以外の男性の悲鳴が聞こえて、シュクはそちらを振り向く。


「……忘れていた」


 シュクの視線の先には、武装した女性の警察官が2名と、美少年と形容するしかないほど顔立ちが整った少年。


 そして、狐の魑魅魍魎に取り憑かれた女子高生が二人いた。


 女子高生から二匹の狐が飛び出し、警察官と少年を取り囲んでいる。


「人質か。けど、やっぱりその程度じゃ……」


「イカー」


 警察官と美少年を人質に取られても顔色を変えなかったシュクの顔が、明らかに焦りの色に変わる。


「イカイカ」


 美少年の腕の中に、一メールほどの大きさのイカのような存在がいたからだ。


「な、んで……」


 シュクの顔色は明らかに絶望に染まっていた。

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