私たちは開闢を望む

おしゃかしゃまま

第1話 プロローグ

 世界に名前が必要になったのは、もう随分と前のことらしい。


 それまでは、世界の名前なんて気にしていなくて、それこそ星の名前を世界の名前だとみんなが何となく思っていた程度だったのだが、必要になったので世界に名前をつけなくてはいけなくなった。


 そもそも、なぜ、世界に名前が必要になったのか。


 その答えは簡単だ。


 世界が増えたからだ。


 これまでの『自然科学』が通用する世界と、『魑魅魍魎』が跋扈するあらゆる可能性を内包した世界。


 世界が一つならば、それこそ小さい世界ならば世界に名前なんてつけなくても良かったのだが、世界が増えたのならばしょうがない。


 分けるために、区別するために、認識するために。


 世界に名前をつけなくてはいけなくなった。


 そして、区別されるのならば、当然そこには格差が生じる。


「サイオウ シュク。ここがアンタが行く世界だよ」


 背が高いショートウルフの女の子は、体型がふくよかな女性から紙を渡された。


 ショートウルフの背が高い女の子、サイオウ シュクが通っている学校は、世界が増えたことで認識された新しい脅威。


『魑魅魍魎』から世界を救う者を育てるための場所である。


 学校の名前は『開闢中高等専門教育学園』。


 その学校で、シュクはEクラスに所属していた。


「学園長は優しいね。アンタみたいな足手まといでも、合格出来そうな簡単な課題を用意してくれている」


 嫌味ったらしく言ったふくよかな体型をしている担任教師から離れるように、サイオウ シュクは部屋から出ていった。


「おい、足手まとい。お前はどこの世界に行くんだ?」


 教室に戻ると、シュクのクラスメイトの一人が話しかけてくる。


「……はい」


 名前も覚えていない無駄にヘアスタイルを気にしているクラスメイトの少年にシュクは先ほど担任教師から渡された紙を見せた。


 断ってもこの少年はしつこく見せるように言うことを知っているからだ。


(どうせ、あとで張り出されるだろうからな)


 だから、シュクは紙を見せたのだが、その紙を見て、少年は声を上げて笑う。


「はっ! マジかよ!! 足手まといは『最弱の世界 イザナギ』に行くってよ!」


 少年の声に反応して、他のクラスメイトも笑い出す。


「『イザナギ』って、あんな世界で何をするんだよ」

「この学校から『イザナギ』に行くなんて、はじめてじゃない?」

「さすが足手まとい。俺たち最優秀Eクラスで唯一じゃないか、こんな世界に行くの」


 そんなクラスメイトたちの嘲笑をさらに大きくするために、少年は新しい燃料を投下した。


「しかも、『イザナギ』で何をすると思う? 『パートナーを探せ』だってよ! 婚活かよ!!」


 少年の話を聞いて、クラス中の笑い声が大きくなる。


「何それ。そんなことをするのか?」

「まぁ、足手まといは顔は良いからな」

「ルックスだけじゃダメだろ。今の時代は能力も必要だろ?」


「はぁー、笑った。ありがとう足手まとい。ちなみに、俺がどこの世界で何をするか知っているか?『アヌビス』で『スフィンクス』を倒すんだよ!」


 少年の声に合わせて、他のクラスメイトも自慢を始めた。


「私は『ハデス』で『ゴルゴーンの盾』を作成してこいって」

「俺なんて『イシュタル』に行って『アンズー』の討伐だよ」


 聞いてもいないクラスメイトの自慢に、シュクは気づかれないように息を吐く。


(なんでコイツら、危険な世界に行くことを喜んでいるんだ?)


 クラスメイトの行く先は、どこも凶悪な『魑魅魍魎』が跋扈する危険地帯である。

 いつ死んでもおかしくない。


(まぁ、どうでもいいか。それより、パートナーか)


 シュクは自分の任務の事を考えながら、クラスメイトたちの笑い声を意識から遠ざけるのだった。



 



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