地下へ潜る

 上層のモンスターの根源を潰すことに成功した一行、時間の余裕はあるが体力、魔力の余力があるかとアキトは全力出していた三人を心配する。

 残った小物を倒し終わった三人はまだまだ行けるとアピールして下層も行くかとアキトは肩を回して少し休憩したら動こうとなる。

 三人は心配ばかりしているアキトに怪訝な目を向けて何故そんなに他人を心配するのかと質問をする。


「んー、何だろうな…知り合いに似てるから?ちょっと違うな」


 お節介の範疇はんちゅうだと笑って答えて次の敵について確認を取る。


「さて下層はゴブリンの住処になっているようだが交戦経験はどのくらいだ?」


「ゴブリンなら何度か…」


 レックスは駆け出し冒険者としての答えを出してアキトは答えとして不十分と踏み込んだ質問をする。


「閉所、特に洞窟や巣といった集団戦になりがちな状況では?」


「い、いえ…草原で数匹…?」


 アキトはその言葉を聞いて頷いて注意をする。


「となると巣穴なんて攻めた事ないな、ヤツらは本来群れる習性がある。つまりそこらを斥候せっこうしてるヤツらとは程度が違う」


 これから向かおうとしている下層はその気があるとアキトは説明して三人は自分達では難しい任務だったと察する。

 怖がらせるだけじゃ駄目だとアキトはその為の自分だと笑ってみせるがやっぱり都合良過ぎて怪しいと女子からは睨まれるのだった。


 分岐点まで戻って来た一行はアキトを先頭に下層へと足を踏み入れる。

 のっけからゴブリンの編隊がお出迎えし石器を手に警告代わりの一鳴きを行う。


「警戒心が高いな…増援に気を付けろ」


 アキトが後方に声掛けを行い松明を振り交戦の意思を示すとゴブリンが石のつるはしや石斧を振り回して襲い掛かってくる。

 所詮は素人に毛が生えた程度の技量で見え見えの動きにアキトは素早くゴブリンを打ち上げ後方の弓と魔法の餌食にさせる。

 レックスもアキトに並び立って接近してきたゴブリンを切り倒し注意を忘れて余裕だと少し脱力する。


「大したこと無いですね!」


「こっからが正念場だ。コイツら部隊編成されてる」


 鳴き声か交戦音に惹かれて次の敵が現れてレックスは再び緊張した表情になる。


「ど、どんどん来ちゃう感じですか!?」


「休み無しを覚悟しろ。押し込むぞ」


 後ろの女子二人も休み無しと聞いて険しい顔をする。一本道の坑道に続々と集まる敵を蹴散らしながら奥へ進んでいく。

 勢いの増すゴブリンの数に流石に若い戦士達は肩で息をしてアキトについて行くのがやっとといった様子であった。


「な、なんか…多くないですか?」


「ぶち当てたゴブリンのコロニーがどんな規模だったかにもよるが…百匹は居るだろうな」


 まだ半分も倒してないと言われて一日で出来る仕事じゃないと実感させられる三人。

 敵の切れ目にアキトが一度帰るかと質問する。三人は顔を見合わせてまだ行けるとオッサンには体力で負けられないと張り切る。

 無理は良くないと気遣うアキトは意地っ張りな若者に対してこれが老婆心というやつかと苦笑いして頬を掻く。


「別れ道も無いし前を俺に任せて少し休んでもいいぞ」


 一応周囲は警戒しとけとアキトは壁を指差して壊してくるかもと冗談を言うがぴしっと壁にヒビが入り冗談で済まされなくなってアキトも慌てて「一時後退」と亀裂から距離を取る。


「ダンジョンワームの生き残りでしょうか?」


 トンカンと壁を殴る音がして四人共に絶対にワームとは違うとアキトは冷や汗を垂らす。別に雑魚が脅威になるのではなく奴らの行動によってこの奥がとんでもない事になっていると理解しての嫌な予感であった。

 壁を突き破って体躯の大きなゴブリンが姿を見せて鉱山に残されていたであろう鉄製のつるはしを掲げる。


「ホブゴブリンってヤツか、ボスじゃないがリーダー格だ、注意しろ」


 アキトの言葉に皆気を引き締めて武器を握り締める。

 若い肉の獲物を見つけて突撃してくる敵にアキトが割って入りつるはしによる攻撃を受け止める。

 形状の独特さから受け止めても先端が頭部目掛けて落ちてきて頭を傾けて回避する。


(危ねッ!…流石につるはし武器にする奴は…居なかったな)


 冷や汗垂らしつつ武器を勢いのまま弾き返し敵をよろけさせる。

 木刀では決めきれないと素早くふところから棒手裏剣を抜き出してホブゴブリンの額を撃ち抜き、上がった顎を木刀で殴り倒す。

 大の字になって倒れ絶命した敵、その先に広がる手掘りの穴からゴブリンが湧いて出てきて坑道は複雑怪奇になっているんじゃないかと『撤退』の二文字が頭をぎる。


「この先が巣でしょうか?」


 慣れた様子でゴブリンを対峙するレックス達の疑問にアキトは「だといいな」と微妙な顔をする。

 適当に穴掘りされて迷宮と化しているんじゃないかと語り地図が欲しくなると呟くとシシーが得意気に3Dマップを光で作り出す。


「エラくサイバーな魔法だな」


「サイ…バー?…とりあえずオッサンが危惧してる程の問題は無いわよ」


「まぁこれがあれば困ったら帰ればいいか…」


 という訳でとアキトを先頭に手掘りの穴を進まされる事になる。

 狭い穴では木刀も振り辛くせっかく買った投擲物を惜しみなく使わされることになり赤字だな等と考えていると別の坑道に出る。


「やっぱりか…荒らされまくっちゃって」


 嫌な予感が当たったと肩を落とすアキトの前に悪さの元凶の鉱夫の真似をしているゴブリン達が躍り出てくる。

 まるで挑発しているかのような動きに青筋立ててイライラをぶつけるように木刀を振り回すアキト。


「掃討するより群れのリーダーを潰して解散させるしかねぇな…虱潰しらみつぶしに歩き回っても仕方ない」


 シシーがアキトの考えを理解出来ないと疲れた様子を鼻で笑う。


「最初からそれで良かったじゃん」


「鉱夫が残党に襲われたらお前らが怒られるんだぞ?仕事の内容思い出せ」


 鉱山に住み着いたモンスターの退治とは小物全部倒すという意味だと責任重大だと説明する。


「親玉だけ倒せばいいならしっかり計画的に回ることなんか考えるものか…」


「その…そこまで深刻に考えなくても…それに僕らの問題ですし?」


 アキトの生真面目さにレックスは苦笑いする。

 確かに自分の任務じゃないなと適当でいいかと割り切ってさっさと行こうとなる。

 義務感からの解放でオラオラと木刀を肩に乗せてヤンキーのように肩を揺らして歩くアキトにゴブリン達もただならぬ空気を感じて警戒心マックスで逃げ出し始める。


「に、逃げちゃってますけど!?」


「あ?巣穴までの道案内じゃないか、ご苦労!」


 ゴブリンに声を掛けるが人間にも分かる嫌な顔を見せてまた逃げていく。

 さっきまでの好戦的な態度はなんだったのかと不思議そうにする女子にアキトは大笑いする。


「数字しか見ない人間よりも獣な奴らは俺の威圧感に敏感に反応してくれるな!マッチョも盗賊も肌で感じる気配より目に見える数字を信じちまう所が奴らより劣るな」


 野生の勘も大事だぞとアキトは教師ぶって教えるが自分達は何も感じないと言われる。


「オッサンの言う威圧感って何なのよ?分からないわよ?」


「そりゃあ…向けてないからな」


 ピタッと足を止めてアキトは三人に振り返り笑顔でドス黒い憤怒と殺意を向ける。

 ゾワッと背筋に悪寒が走る程度には三人は足を止め苦笑いする。


「お、怒ってる?オッサンって言ってる事?」


「…慣れてる」


 絶対怒ってるとシシーは半泣きになり実際に実力を見てきた三人はビビる。


「ま、カシラ張るって奴は生命いのちの危険を感じても退けない事もある。お前らは適度に逃げる事覚えろ」


 また教訓を語っていると冷たい風が流れ込んでくる大穴への入り口に辿り着く。

 全員がここがゴブリンの巣穴に繋がった場所だと理解し身構える。

 よりにもよって繋がった場所が巣穴最奥部のキングゴブリンの部屋だとアリスが目を細めて弓を構える。


「物知りだな」


「本でしか知らないけど…」


「俺が殺る。そこで警戒してろ」


 アキトが穴の中に飛び込みホブゴブリンよりまた一回り大きい骨の装飾をしたボスが招かれざる客人に向かい咆哮する。

 ビリビリ皮膚で感じ取れる圧、しかしアキトも負けじと睨み返してぶつかり合う気迫、周囲からゴブリン達が現れるがレックス達と同じように全員が息を呑み実況しようとする。


「こ、これが強者の闘い!?」


「いや、違うでしょ…」


 不敵に笑うアキトにとっては遊びの一環と来い来いとキングを挑発する。キングは玉座の横に立てている大鉈を手に取りふてぶてしい獲物を笑い返して鉈を振り上げる。


「大盤振る舞いだ!受け取りな!」


 遅いと言わんばかりにアキトはコートの裏の暗器を的確に人体で言う急所目掛けて投げつける。グサグサと見事に命中し足下から崩れるキング。


「敵は自分より小さく獲物は木刀しか持っていない、飛び道具は無いと思い込む油断、ちょっとオツムが良くなって悪いとこが出たな」


 バチバチに殴り合うと思って見ていた三人は「汚い」と戦術を批判するのであった。

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