鉱山街カッパ

 宿場町を出てから暫くは舗装されていない道で小石を踏む度にゴトゴトと揺れていた馬車。

 魔法使いの耳長のシシーが吐き気を訴えて昼食前に一旦休息を取ろうとなり馬車は少し道を外れて止められる。

 アキトも馬車を降りて身体を解して一言愚痴る。


「うぇ…腰が痛え…」


 ただの荷車だから座布団等も無く木材がガツガツとケツを突き上げてきて流石に身体に悪いと年寄りみたいに腰を叩く。

 その向こうでは虹を作るシシーと貰いゲロしているレックス。

 ちゃんと周囲を警戒しているアリスにアキトは感心と頷いて馬の面倒を見ている馬子にアキトは話し掛ける。


「この先もこんな悪路なのか?」


「いえ、もう少しすれば川があって石橋が架かっててそこからは石畳です。もう少しの我慢ですよ」


 道草を美味しそうに食べる馬を見て自分も軽食にサンドイッチでも宿で見繕ってもらえば良かったとお腹を擦る。

 今更何か言っても仕方ないとグロッキーな二人が復調するまで自分も周囲警戒をする事にする。

 馬子は旅慣れしているアキトに疑問を投げ掛けてくる。


「相当慣れているようですがなんでレベル上がってないんですか?」


「言っていいのかなぁ?俺この世界の人間じゃなくてな…ちょっとした使命があって神様にご指名されたっていうか」


 オヤジギャグで和ませようとするが苦笑いされてセンスの悪さ、才覚の無さはいつも通りだと「そういう事」と流す。

 周囲にひりついた空気が漂いアキトは表情をキリッと切り替えてまだダウンしている二人を見てアリスに指示する。


「何かに見られている。弓師!二人を頼む!」


 アリスは黙って頷き二手に分かれた状態になると狼が飛び出してきて馬をジッと睨む。

 怯えて暴れる馬の手綱を必死に掴みながら馬子がモンスターの名前を叫ぶ。


「ダ、ダイアーウルフだッ!」


「馬を落ち着かせろ。速攻で仕留める!」


 アキトは木刀を抜いて飛び掛かる狼の土手っ腹を殴り付けて地面に叩き付け首に追撃入れようとするが先に矢が狼の首に突き刺さりトドメを取られる。

 悪くない腕だとアキトは息を整えて周囲を確認する。


「群れ…ではないな」


「どうどう、仲間がいるかもしれません…すぐに動きましょう」


「だな、レックス!移動する。我慢してくれよ?」


 アリスに肩を貸された二人が何とか馬車に乗り込み次いでアキトは狼の死体を担いで乗り込む。

 レックス達はそんなものと嫌な顔をするがアキトは金になるかもと苦笑いする。


「毛皮とかさ、肉もちゃんと火を通せば食えるかも。骨だって加工すれば道具に…」


「お金入って余裕あるのになぜサバイバルするんですか…」


 ドン引きされるが小銭も大事と豪語するが馬子から死体の血の臭いが荷物に付くと言われて微妙な空気になってアキトは仕方なく外に投げ捨てるしかなくなる。


「勿体ないなぁ…」


「野生の毛皮なんて毛並みが汚くて二束三文でしか売れませんよ…」


 狩人としての先輩のアリスに言われてそんなものなのかとアキトは軽くヘコむ。

 暫くして話に聞いていた通り川に架かった石橋を境に舗装路に入り安定した走行になりアキト達の尻も守られる…事はなく相変わらず石畳の上でゴトゴトと小刻みに叩かれる感覚にアキトは「車輪が悪い!」と文句を言うのであった。


 夕刻、予定通り鉱山街に到達した頃にはヘトヘトになっていたレックス達は馬子に感謝してヨロヨロと宿へ向かう。


「ドラゴンがいるって聞いたが…平和だな」


「周囲の農場の家畜を襲うのが主でここには来ないそうですよ?巣もここから少し離れてますし」


「マジか…歩かないといけないのか…とりあえずここまでありがとうな」


 アキトも二日世話になった馬子に感謝しながら荷物の運び込みを手伝う。

 そこまでしなくてもと遠慮されるがアキトは情報収集の為と下心があると答えて無理矢理商家に上がり込む。

 使用人達から変な奴がいると邪険に扱われつつアキトは主人と面通し出来ないかなと考える。

 宝石を身に着けふとった男が横柄おうへいな態度で馬子を叱りつけているのを目にする。


「シルバ!貴様一刻も予定より遅れおって!商談に必要な資材は足りているのだろうな?!」


「も、申し訳ございません!旦那様。しかし資材はちゃんと準備致しました!」


「なぜ遅れた!?」


 旅人を乗せた等と答えられないシルバと呼ばれた馬子は震えた声で途中休息を挟んだと謝る。


「休みが必要な馬など食ってしまえ!」


 主人が手を叩き合図を出そうとするのを馬子は必死で止める。


「だ、旦那様!あの馬だけは!」


「代わりの馬などいくらでも…!」


 アキトが話を止めようと荷物を持って主人の前に姿を見せて悪い笑顔をする。


「すみませんねぇ、雇って貰おうと思って自分が参加したせいですわ」


「な、何だお前!?」


 主人は汚らしいとアキトを指差して叫ぶ。

 自分は無理言って馬車に乗ったから遅れたとヘラヘラと語ると主人は不躾なアキトに怒りを向けて「出て行け!」と叫ばれ荷物を床に置いてそれじゃと反省する事なく屋敷を出ていく。

 遠くで馬子が何度も感謝している気がしたがアキトは振り返ることなく宿を取りに行く。


 レックス達が宿で明日の作戦立てしているが見えアキトは問題なさそうと頷きつつ一人部屋の予約をする。

 金はあると宿主に伝えるとゴマすりするように手をこねて手配しますと嬉しそうに言われて鍵を受け取って夕食を取る事にする。

 食事するついでにレックス達の様子を見守ろうと見える位置に座りどんな作戦か耳を貸す。


「鉱山の一部に住み着いたゴブリンとダンジョンワームがターゲットだ」


「虫ぃ?やだー」


 ワームと聞いてシシーが身悶えする。


(ゴブリンの方が厄介だな…社会性があるタイプなら連携が取れているだろうし…まぁあ虫は虫で死角に潜んでいる可能性もある。暗い洞窟は初心者にはキツいんじゃないか?)


 鉱夫飯としてスタミナの付く大蒜にんにくっぽい香りついた肉と米のセットをガツガツと食べながらアキトは三人で大丈夫かと不安になる。


「この鉱山街カッパは王国の大事な鉱石の採掘場、必ず安全を取り戻さないと」


(カッパ…河童?…あ、カッパーか。地球なら銅線とかで重宝するが…)


 オヤジギャグをまた脳内で繰り広げ一人で納得して明日は山登りより彼らの手伝いした方がいいかと思い直す。


(どうせ俺の方は期限ある訳じゃないし金もあるし暗器揃えたらあっちを手伝うのも悪くは無いな、知り合って間も無いとは言っても話ここまで聞いて死なれたら寝覚めが悪い)


 飯を平らげて塩と砂糖の入ったスポーツドリンクのような水を飲み干して明日に備えて早めに就寝するアキトであった。


 翌日、武器屋が開いているのを確認して色々と物色する。

 木刀だけの男に店主は剣と防具をオススメしてくる。一応使える物ならとアキトも確認する。


(鉱山の街だからといって優秀な鍛冶師がいるわけじゃないんだな…ナマクラとは言わないが長持ちはしなさそうだ。防具は…要らないな動きにくいの嫌だし)


 オススメ装備よりもナイフを所望すると店主は金にならない客かと渋い顔をしながら店内の端っこを指差す。


「なあ店長、手裏剣のたぐいはあるかい?」


「手裏…剣?なんだいそいつは…?」


 アキトは針など投擲武器だと説明すると物好きな客だと鼻で笑いながら表には無い太い針状の暗器を幾つか持ってくる。

 古めかしくちょっと錆は付いているが問題無く使えそうだとアキトは手にとって棒手裏剣を数本とナイフも幾つか購入する。


「アンタ物好きだねぇ、剣や防具なんかより投擲物だなんて消耗品だよ?それ」


「はは、からめ手が好きなんでな。さーて、鉱山行くかぁ」


「住み着いたモンスター退治か…あそこにゃ暗い所もある。松明たいまつも買うかい?」


 忘れてたとアキトは松明セットを購入してコートに色々と暗器を仕込んで準備完了とビシッと決める。


「アンタのその服、そんなに収納しちまって…魔法か何か使ってるのかい?」


「オーダーメイドの改造服さ、薬瓶も仕込めるぜ?」


「トンデモねぇ馬鹿だねアンタ…」


 店主の言葉にその通りと笑って答え、困っているであろう若者達に手を貸してやろうと意気揚々と武器屋をあとにして鉱山の入り口で止められるも『お仕事』と嘘ついて侵入するのであった。

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