第七章 「交差点」

――8:12。


 陸は目を開けると同時に、体を起こした。

 今日は迷わない。

 母と篠崎、二人を同じ場所に呼び出し、何を隠しているのかを問いただす。

 このループが始まって以来、もっとも短い朝だった。


 *


 午後三時、駅前の小さな喫茶店。

 窓際のテーブルに座ると、しばらくして母が現れた。

 薄いグレーのカーディガン、手には紙袋。

 「急にどうしたの?」と笑いながらも、視線は落ち着かない。


 その五分後、篠崎がドアを押し開けた。

 ドアベルの音がやけに長く響く。

 「お疲れさまです、陸くん。お母さんも」

 彼は笑顔を浮かべるが、目だけが冷えている。


 コーヒーが運ばれるのを待たず、陸は切り出した。

 「二人は、いつから知り合いなんですか」

 母の手が紙袋の持ち手をきつく握る。

 篠崎は「まあ、ちょっと前から」と曖昧に笑った。


 「この数日、俺の周りで起きてること……全部偶然だと思ってます?」

 声が震える。

 篠崎は目を細めた。

 「偶然じゃなきゃ、何だと?」

 「あなたが仕組んでるんでしょう。母さんも知ってる」


 沈黙。

 店内のBGMが、やけに遠くに聞こえる。

 母は唇を噛み、視線をテーブルに落とした。

 「……陸、これはね……」


 その瞬間、外から甲高い叫び声。

 視線を向けると、交差点で信号無視のトラックが突っ込んできた。

 車道脇の街灯が根元から折れ、ゆっくりとこちらに倒れ始める。


 篠崎が立ち上がる。

 「……やっぱり、間に合わないな」

 その声は、妙に諦めた響きだった。


 街灯の影がガラス越しに伸びてくる。

 母が立ち上がり、陸の腕を掴む。

 だが、その手が微かに震えている。

 「ごめん、陸」


 言葉の意味を理解するより早く、破壊音と共に世界が白く弾けた。


 そして、闇。

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