ダンジョン攻略はサクラ色の魔法とともに〜反則(チート)すぎる魔法少女は迷宮を破壊する
テルヤマト
一章:桜色の魔法少女
プロローグ
人生で《魔法少女》に出会ったことはあるだろうか。
それも、とても可愛くて、《魔法美少女》とでもいうべきの。
申し訳ないことに、俺は既に出会ってしまった。
そして残念ながら知り合いになってしまい、お近付きになってしまった。
まず、俺が知り合った《魔法少女》は三人。
「先輩、今の見てました!? 一気にモンスターをやっつけられました!」
彼女の名は【サクラキャット】。文字通り『桜色』をした長いツインテールとフリルのスカートがついた衣装に、ふわふわな猫耳と尻尾のついた《魔法少女》。
「ちょっとー、あんたが真っ先にボスに突っ込むから、周りの手下を全部相手にする羽目になったんだけどー? 先輩は一番近くで見てましたからわかってくれますよね? あたしがたくさん頑張ってたこと」
こちらは【フレアウルフ】。全体的に赤い色彩の彼女は、緋色の髪の毛を後ろ側で一本にまとめ、袖なしの上衣にミニスカート&スパッツな衣装を身にまとってる。『狼』のような犬耳とふさふさした尻尾も特徴的といえるだろう。
「はあ……二人とも、さっきも言っただろ。《魔法少女》の力を使っても、いきなり強引に蹴散らすんじゃないと。ほら、先輩からも何か言ってやってください」
美しく纏められた青い色の髪型と長いスカーフ特徴的な彼女は【スカイバード】。美しい瑠璃色のドレスは『水鳥』をも思わせる優雅さと気品さを思わせる。
ある日ひょんなことから彼女たちと知り合った俺は、紆余曲折あった後――四人で仲良く『ダンジョン』に潜っていた。
全員俺より年下で、俺の後輩でもある。
《魔法少女》が何をする存在なのかどうイメージを持っているのかは人それぞれなのかもしれないが、今はそんな重要でない。
肝心なのはこいつらと一緒にいると命がいくつあっても足りないということだ。
「とりあえず先輩、頑張ったご褒美にハグして下さい! あっ、もちろんキッスもオッケーですよ!」
「こらあっ! そこ、ナチュラルに何言ってんの!? あんたの欲望を強引にぶつけないの! 先輩はこの後あたしと二人っきりでデー……バイトなの!」
「待て、それより先に先輩は私の屋敷での修行がある。この軟弱者は私自ら徹底的にしごかなければならないんでな」
三人の《魔法少女》それぞれの発言の後、お互いムッと見合わせる。
「ちょっと! みんな先輩を独占しようとしないでよ! 先輩は私の『妖精さん』なんだから!」
「独占しようとしてんのはそっちでしょ! 大体、先輩は誰のでもないじゃん」
「いい加減にしろお前たち。何もこの男のために言い争う必要はないだろう」
「そんなこと言って、抜け駆けするつもりなんじゃない?」
「上手い言葉言って、一人だけ美味しい思いしそうだよね」
「お前たち……私のことを何だと思っている!?」
なんか、喧嘩が始まってしまったが、どうってことない。今日はこんな調子で三回目だ。
「お前たちなぁ……!」
いい加減に言わなければならない。
今、俺たちの状況を。
『グオオオオオオオ!!!』
『キシャアアアアーーッ!!』
『ガラララララァッ!!』
無機質な正方形の広大な空間を覆い尽くす無数の群。
凶悪な牙に角に爪に腕に尻尾に……殺意を湛えた瞳が360度、どこを見回しても目に入る。
俺と彼女たちを囲む、最悪のモンスターパーティー。
「どうでもいいから早くなんとかしてくれええええーーーっ!!」
絶対絶命の状況に泣きそうな声で叫ぶと、すぐ目の前で大きな爆発が上がる。
『ギャアアアアアーーーッ!!』
空中に舞い上がるモンスターの群れ。
その爆発の中心に立ち、桜色の光を纏うサクラキャットが自信に満ちた表情でこちらに振り返る。
「はいっ! なんとかしてみせます!」
そんな彼女に続くように緋色と瑠璃色の《魔法少女》二人もモンスターの群れへと飛び出した。
「ずるいよサクラキャット! あたしだって役に立つってこと見せてやるんだから!」
「まったく……戦果を気にして大怪我をしても知らんぞ!」
そして間もなく激しい戦闘が繰り広げられる。
桜色の爆発が、緋色の閃光が、瑠璃色の衝撃波が、次々と屈強なモンスターたちをなぎ倒していく。
「こうなったら誰が一番多く倒した人が先輩を独占ってことで!」
「いいねそれ、あたし乗った!」
「何を勝手に……と言いたいところだが、いいだろう!」
自分たちを囲んでいたモンスターたちがまるで枯れ葉のようにふっ飛ばされていく光景を、俺は冷や汗まじりで見ていた。
「くっそ……こいつら本当に……!」
悪態つく俺だったが、その時背後で困惑じみた声が聞こえてきた。
「……んなっ、なんだこれは……!?」
「――あっ、大丈夫ですか!?」
ついさっきまで気を失っていたダンジョン探索者の男性が起き上がったのを見て、俺はすぐに側に駆け寄った。
「私たちは確か……大型のモンスターに襲われて……」
「はい、俺たちがなんとか助けに来れました。あなたの他の仲間たちも無事です」
そう言って彼の後ろで眠っている者たちを指し示してやると、彼はほっとした表情ながらもまだ困惑しているような感じであった。
「た、助けにって……君みたいな子供が!?」
「え、えぇ、まぁ……ここに来たのはたまたまですが……」
「たまたまだって!? まさか、ここはS級ダンジョンなんだぞ!?」
彼が驚愕するのも無理はない。本来ならばこの場所には選ばれたそれ相応の人間しか立ち入ることを許されない。加えて、今の俺の貧弱な装備からはどう見たって熟練なダンジョン探索員って感じじゃない。
「それにあそこで戦っているのは……」
彼の目の前では魔法少女たちが無遠慮に大技で無数のモンスターたちを蹴散らしている。さながら戦争映画だ。
「あぁ、その、あいつらは……」
どう説明しようか迷っていると、魔法少女の一人フレアウルフが目の前にやって来た。
「先輩、まずいよ! サクラキャットが……!」
「えっ?」
どういうことが分からず戸惑っているともう一人の魔法少女スカイバードもやってきた。
「とりあえず防御魔法の準備だ! フレアウルフは怪我人たちをできるだけ一箇所にまとめるんだ!」
「えっ? えっ?」
聞き返す間もないまま二人が何やら行動を開始している最中、視界の向こう側ではサクラキャットが片手に持った棍棒のような短杖を掲げ真上に飛び跳ねた。
「面倒くさいので、これで全員まとめてやっつけます!」
「えっ? えっ? ええっ?」
膨大な光がサクラキャットの手の中で溢れ出し、それが周囲一帯を照らす。
眼下にいる大量のモンスターたちも、少し離れたところにいる俺たちも、その輝きに目が眩む。
「大自然の力を借りてぇ、今、必殺のぉーーっ……!」
「ま、まさか……」
俺が状況を理解しだした次の瞬間、サクラキャットが地面に向けて短杖を振り下ろし、その力が解き放たれた。
「サクラ、アタッァァァーーーークッ!!」
地面へ叩き込まれる桜色の光の大瀑布。
凄まじい衝撃ともに数多のモンスターを消し飛ばし、それと同時にフレアウルフとスカイバードがそれぞれ半透明の魔法の壁を展開して吹き荒れる衝撃波から俺たちを守っている。
直撃したモンスターは当然ながら、離れたところにいた個体までもがその余波で吹き飛ばされているのが魔法の壁越しに見えていた。
「もう、めちゃくちゃだなぁ、あの子は!」
「ああ、このままだとまずい……!」
前と後ろの両側から魔法を展開して壁を作るフレアウルフとスカイバードが冷や汗まじりで苦言を漏らしているが、そんなことなど露知らずにサクラキャットは光の放出を終える。
「やったあっ! 殆どやっつけたよ!」
彼女はまっさらになった地面を見て笑みを浮かべつつ着地しようとした――その時、ピシリと不吉な音が響いた。
「あ」
俺とその場にいた全員から、気の抜けた声が漏れ出す。
「あり?」
頭の上に
彼女が降り立った地面からクモの巣状にヒビ割れ、ただっ広いダンジョンの
「あ、これ、私やっちゃいました?」
てへっ、と、ちょっと気まずい笑みを浮かべて見せる桜色の彼女。
その瞬間、足下の地面が崩落し、サクラキャット以下その場にいた全てが飲みこまれた。
「やり過ぎだあぁああああ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
がらがらと崩れる足場から落ちながら悲痛な叫ぶ。
「あーあ、またこうなっちゃったか」
「落下保護の魔法は既にみんなに施しました。先輩、今は安心して落ちてください」
他魔法少女二人も、呆れつつも冷静な態度を見せてダンジョンの底へ真っ逆さまに落ちていく。救出したダンジョン探索員たちはあまりのショックにまた気絶している。
ほら、言った通り、命がいくつあっても足りそうにない。
こんな彼女たちでも一度は世界を救ったのだというのだから驚きだ。
(本当に……なんでこんなことに……)
後悔を感じつつも、反省を促しつつも、もはや後の祭り。
俺とこいつらの因縁はもはや一蓮托生、そんなレベルにまで至っている。
そう、全ての始まりは俺と彼女たちが出会った、今年の四月にまで遡る。
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