第21話――桜色の魔法
虹色の光がサクラキャットの瞳の中に映る。
右手で持った『マーベラスプリティライト』を何度も振ってみせながら、声を張り上げてサクラキャットを応援している。
ただそれだけで、彼女には十分だった。
だが、彼はそれで終わらせなかった。
たった一つの石ころで、『ダークビースト』の幹部を仕留めてみせた。
巨大なクライジュウと比べれば、《魔法少女》である彼女と比べれば、ずっと矮小で軟弱な存在であった彼が、である。
「頑張れえぇーー! サクラキャットーッ!」
声が届く。彼女の耳に、心に。
(あなたはやっぱり変わらなかった、あの頃から)
サクラキャットの――春崎芽衣の胸の奥にある記憶が、古いアルバムを開くような懐かしさと温かさを彼女に与えた。
それだけで彼女は胸いっぱいな思いに包まれ、静かに破顔する。
「先輩、ありがとうございます!」
サクラキャットは感謝の言葉を述べながら深呼吸を挟み、再びクライジュウに向き直る。
一方のクライジュウは司令のサルボを失いどうして良いか分からず戸惑うように身動きが取れずにいた。
「うぐぐ……何をしている、クライジュウ! その後ろのガキをさっさと殺せ!」
クライジュウの足下の地面で、頭を押さえながら叫ぶサルボ。血相の悪かった顔がバーナーで熱された鉄のように真っ赤になって憤慨しているも、その体は情けなく地面を這いつくばっていた。
「ク、クラララ…ッ!?」
慌てて後ろを振り向こうと身体の向きを変えるクライジュウを目にして、サクラキャットは眼尻をつり上げる。
「そうはさせない!」
疾走しクライジュウより高く跳躍したサクラキャットは力を右脚先に溜め、空中で一回転させる。
「スーパーハートフルキャットキック!!」
力の波動を溜めたサクラキャットの踵落としがクライジュウの頭頂部目掛けて真っすぐ振り下ろされると、雷鳴のような轟音と共に凄まじい衝撃がかの巨体を襲った。
「グ……クララララァーーーッ!?!?」
渾身の一撃を受けたクライジュウは体勢を崩して尻もちをつくように地面に倒れる。その真下の地面で伸びていたサルボは、唐突に冷や汗が噴き出していた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ〜〜〜〜〜〜〜っ!!?!?」
ズシーン……という砂煙が舞うのを横目で見ながら、サクラキャットはそのまま地面に着地して
「サクラキャット……!」
『マーベラスプリティライト』を持って声援をくれる彼と視線が重なり、彼女は大きく頷く。
その一瞬がサクラキャットにとってなによりの幸福であり、彼女に無限の原動力をもたらすものであった。
「チーシャン!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
呼びかけに応じ、
そして、それが最高潮に達したとき、彼女は空に右手をかざした。
「……召喚、《ワイルドシャイニングステッキ》!!」
昏い闇に覆われていた空から突然、金色の光が差し込む。
紫色の分厚い雲を突き抜けるように光の道筋が真っすぐとサクラキャットの頭上に降り注ぐと、その中を通るようにきらめく一本の杖が舞い降りた。
白い本体に桜色の縁取りが飾り、ハートの形をした宝玉が先端についた逆円錐型の杖。それをサクラキャットはかざした右手で受け取る。
「うっ……あ、あれは……!?」
地面を這いつくばり、辛うじてクライジュウの下敷きから逃れていたサルボだったが、顔を上げてその光景を目の当たりにしてますます冷や汗が噴き出す。
「私の名は【暁星】――『
目を閉じたサクラキャットがその杖を両手で持ち、祈るように顔の前で掲げる。
風が流れ、サクラキャットの長い桜色の髪が揺れ、次第に強まっていく。
「
この世に存在する如何なる言語にも該当しないその祝詞を口にしながら、神秘的な力場が辺りを包んでいく。
「
サクラキャットの祈りの力が最高に達した瞬間、彼女を中心に立ち上っていた巨大な光の柱が急激に消え失せ、その代わりに天に向けていた杖の先端に集まる。
まるで大地を照らす太陽が地上へ落下し、彼女がその杖で受け止めたようだった。
その膨大な輝きに思わず目を背ける浅田や、遠く離れていたクライジュウやサルボもその神々しき力の存在にただただ圧倒されるように硬直していた。
「この世全ての悲しみと、苦しみと、闇を祓うため、大自然の力を借りて――今必殺の……!」
彼女は手にした杖――《ワイルドシャイニングステッキ》を再び片手で構え、反時計回りに空中に円を刻み、そして、その先端をクライジュウの中心に向け――
「サクラアタアアアアアアアーーーーーーック!!」
そして、全ての力が解放された。
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