上噛集落の肝試しについて
馬村 ありん
第一夜 肝試しの計画
2025/08/08 22:04
横になっていたベッドから僕は半身を起こした。
あの上噛集落だって……むかし殺人事件のあった場所だぞ?
何もない夏休みを退屈して過ごしていたところだった。首尾よく宿題は完了させたし、買いためていたワンピースも全巻読んだ。甲子園で応援していた金足農業も残念ながら初戦敗退してしまった。
毎日飼い犬のトビ(ダックスフンド)を散歩させることぐらいしかやることがない。
そこで、高西に『何か楽しいことはないか』とLINEにメッセージを送っていたのだ。
『集合は明日の夜八時。まずはファミレスで集まって、それから集落まで行こうぜ』
高西のメッセージにはそうあった。
『集落まではどうやって行くんだ? まさか自転車とか徒歩で?』
『俺の兄ちゃんが大学から帰省してきたんだよ。八人乗りのワンボックスカーを持ってるから、車で運んでもらえる。で、どう? 倉橋は参加するの?』
『どうしようかな。あんまり好きじゃないんだよな、廃墟巡りとかは。なにも怖いからってわけじゃないんだけど』
『お前、けっこう
井崎友恵――高西の文章にその名前を見つけた時、心がドキンと弾むような感覚があった。頬のあたりがあつくなる。
『井崎さんが?』
井崎さんは、高西の恋人の猫田美咲と友達同士だった。猫田さんの誘いで、井崎さんも来ることになったのだろう、おそらく。
『男女比1:1ぐらいになりそう。ちょっとした合コンみたいだな。で、倉橋はどうすんだ?』
『参加するよ』
『よろしい。この機会に井崎友恵と恋人になれるよう頑張るんだぜ! 俺たちも応援するから』
ベッドサイドにスマホを置き、再び僕は枕に頭を沈めた。
井崎友恵の姿が頭に浮かぶ。肩まで伸びたサラサラのやわらかな髪。ちいさな卵形の輪郭。太眉は意志の強さを感じさせる。茶色の瞳は、まるで宝石のよう。
夏の間、彼女はどうしていただろうか。学校では毎日顔を合わせることができたというのに、休みに入ってからその姿を見ることはかなわなくなっていた。
僕たちは仲を深めることができるだろうか?
明日はどんな服を着ていこう?
おしゃれしていった方がいいだろうか?
でも、肝試しにおしゃれというのもマヌケな話という気がする。
勉強机の隣の鏡台にすわり、冴えない自分の姿を目の当たりにする。とりあえず、夏の間ケアを怠った眉毛を整えた方がいいだろう。ボサボサの髪も明日はスプレーやワックスで固めた方が良さそうだ。
ファッションまわりなど明日は考えることがたくさんありそう。
こうして、僕は肝試しとは別の意味で緊張してしまうのだった。
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