24 ピアノ搬入の報告

 魔王は執務室で張り切って仕事をしていた。

 昨日ドールハウスを去る間際、見送りについてきたリコにこう言われたのだ。


「魔王様、次のドールハウスも楽しみにしています。作業、頑張ってください!」

「ッ!? うむ」

「あ、もちろんお仕事も! でも、お体には気を付けてくださいね」

「ああ。ではまたな」


 うっかりまた「愛いやつめ」と思いそうになり、オーラが飛んだら不味いと、慌てていつも鬱陶しく付き纏ってくるリザードマン族長の娘の顔を思い浮かべて、なんとか気を反らした。

 危うく魔王の威厳に傷を付けてしまうところだったが、それでも言われた言葉を思い出すと、仕事も作業も意欲が漲ってくる。


「……ふっ。ふふふ。ふはははははは。はーっはっはっは」




 そんな魔王の執務室のドアの前で、副官と執事が小声で言葉を交わしていた。


「今我々が入室したら、我が君は一気に不機嫌になりそうですね……。あんな高額商品をこっそり購入したりして、かなりきつく小言を言いましたから、我が君もだいぶ堪えたようでしたのに……」

「もう一気に平気になっちゃったみたいですね。うわーまだ高笑いしてる。ちょっと不気味だなあ。でも、主の機嫌がいいのはいいことですよね、セベリノさん!」

「ティト殿のおっしゃるとおり。ようやく我が君の気に入ったドールが居ついてくれて、私もひと安心です」



  ◇  ◇  ◇



『大儀』

『おつー』

『……こんばんは……』


 今夜も作業通話に【まおはこ】の三人が集まった。

 昨日、魔王はピアノの搬入のため作業通話を休んでいる。魔力を大量に消費すると予想されたため、作業通話は休むとあらかじめ宣言しておいたのだ。


『魔王、ピアノの設置はうまくいったのか?』

『もちろんだ。きちんと演奏できていたぞ』

『聴いたのか!? いいなー、どうだった?』

『技術的なことはわからん。だが、実にいい音色だった。素晴らしい楽器だぞ』

『おお~。動画が楽しみだなー』

『……楽しみ……』


 幸いなことに、魔王がドールハウスに入っている時の様子は撮影されていないので、魔王がうっかりオーラを飛ばしたところをウーゴたちに見られることはない。

 オーラがドール以外の者の感情にまで反応するとは思っていなかったので、誰かに知られる前に修正できたのは幸いだった。魔王自身がドールハウスの中に入った甲斐があったと言うものだ。


 今回、本物のグランドピアノをこの小さなドールハウスに搬入するために、魔王はかなり無理をした。大量の魔力を消費して、力技でねじ伏せたと言っていい。

 そして、無事に搬入できたか確認する必要がある、だから俺が直接赴くのだと、誰に言うでもなく理由をつけてドールハウスに入ったのだった。

 今までは外から眺めるだけで、中に入ろうと考えたことなど一度もなかったのに。


 ポーションによる回復を必要とする程度には疲労した。その上、高額なピアノの購入がバレて副官と執事にさんざん絞られたが、魔王に悔いはない。

 ピアノの音色は素晴らしかったし、リコが喜んでいたのでとても満足している。

 次のドールハウスへ移す時もまた力技でねじ伏せることになるが構わない。移すとリコに約束したのだから必ず実行する。魔王に二言はない。


 ピアノの搬入は、魔王がドールハウス内へ赴く良いきっかけとなった。

 リコから直接要望を聞き出せたこと、庭や園芸への関心度合いや動物好きだと知ることができたのは大きい。

 そして何より、いつもリコが眺めている夕暮れ時の光景を見ることができた。

 動画では見れない光景を自分一人だけ見たわけだが、ウーゴとマリルーが知れば確実にうらやましがるので魔王は言う気はない。



 オーラと夕暮れの件は伏せたものの、それ以外の情報はすべて【まおはこ】で共有した。

 リコがピアノを弾いて泣いていたこと、泣くほど感動していたこと。

 次のドールハウスへ移動する際はピアノとぬいぐるみもと頼まれたこと。

 オレンジジュースとミルクと冷たいお茶が飲みたいこと。

 次のドールハウスに庭を付けると聞いて喜んだこと。花はきれいと思っていて、園芸は知識も経験もないがやってみたいと思っていること。

 そして────


『は? 小鳥?』

『庭に木が生えているなら小鳥が来るかもしれないと言って、わくわくのオーラを飛ばしていた』

『げっ。そんな仕様になってねえよな。どうすんの?』

『鳥のミニチュアフィギュアがあれば魔道具化でなんとかできるだろう。ウーゴ、当てはあるか?』

『オレの知り合いにはいねえけど、購入したミニチュアプラントの作家なら当てがあるかも。ネイチャー系の作家と交流があるから聞いてみるぜ』

『頼む。今後、鳥以外でもミニチュアの動物フィギュアが必要になるかもしれん。伝手はあった方がいい』


 魔王はリコが鳥だけでなく動物が好きで、だが飼ったり触れ合ったりする機会はなかったようだと二人に伝えた。


『そっかー。それでリコリコはあんなにぬいぐるみを喜んでるのかもな』

『……アニマルモチーフ……アニマル柄……うふふ……』

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