第8話 恋と絆のはざまで

 次の週末、神崎かんざきあおいは故郷・置賜おきたまの地につかの間の帰省をした。

 置賜の実家では姉・彩花あやかが温かく迎えてくれた。


 葵と彩花は久々に、一緒に育った姉妹水入らずで語り合った。

 しかし、葵の心の中では、紗花さやかの話が引っ掛かっていた。

 そこで、さりげなく、紗花の話題を振ってみた。



「お姉ちゃん、最近、紗姉さやねえとは連絡とってるの?」


「うん!この前も佐渡の神事が大変だった…って言ってたよ。それに、羽越大学にも行ったみたいじゃない。葵と一緒にデートしたよ……って、それはもう、嬉しそうに言ってたよ!」



 続いて、優斗ゆうとについて探りを入れる。



「じゃぁ、紗姉とは、優斗君についての話ってするの?」


「えっ!?……どうしたの急に?」



 紗花と彩花は連絡を取り合っている──けれど、きっと「その話」には触れていないのだろう。 だからこそ、葵は単刀直入に切り込んだ。



「ねぇ、お姉ちゃんと優斗君って……付き合ってるの?」


「なっ……なにそれ!? ちがうってば……!」



「でも、優斗君と二人きりでよくしてるんでしょ?

 この前、紗姉が羽越に来た時、聞いたよ……」


「ふふっ、近くにいる『弟』なんだもの。そりゃ、気になるに決まってるでしょ?

 それに、紗花との思い出話だって、色々と聞きたいし……ねっ?」



「ふーん……それなら、良いんだけど」


「それにね、去年の秋にね、優斗君が佐渡に帰省したんだって。

 そして、紗花と一緒にドライブしたらしいの。

 それ聞いて……何かちょっと、なっちゃった……」




(えっ!?……やっぱり!……そうなんだね……

 もしかして、そうじゃないかと思ってた。でも、聞きたくなかったな……。)




 彩花の「好き」が、確かにそこにあった。

 そして、それは紗花の気持ちと、重なっているようにも思えた。




 葵は核心に迫る。


「それって、ホントは優斗君のこと……、『弟』以上に思ってるんじゃないの? 

 実はそうなんでしょ?」


「えっ……『弟』以上?……そうね、そうかもしれない。ふふふ……。

 やっぱり、葵の目はごまかせないよね」



 彩花は顔を赤らめながら話した。

 否定しきれないほのかな想いが、言葉よりも表情に滲んでいた。




 そして、葵は紗花のことが気になった。

 大好きな二人の姉──彩花と紗花──が優斗を巡って、

 互いに傷つけあうことを恐れたのだ。



「じゃぁ、紗姉はどうなんだろう……。

 もしかしたら、紗姉も優斗君に対して……そんな気持ちがあるのかな……?」


「……そうかもね。紗花も優斗君に想いを寄せてるのはね……何となくわかるんだ。

 ってやつでね……」



 彩花の声には、どこか寂しさが滲んでいた。

 それはまるで、自分が「後ろから見守る立場」に回るしかないと、悟っているような響きだった。




「だとしたら、二人で同時に優斗君に……ってこと?

 それって、双子で互いに『恋のライバル』になっちゃうんじゃない?」



「それもそうね。もちろん、葵や紗花との絆は大切にしたい。

 でもね、優斗君への気持ちも、正直、ちょっと抑えられなくなってるんだ……。

 だから、心が苦しくなる時があるの。


 でもね、葵……たぶん、私、紗花には勝てないと思う。

 だって、子供の頃から、優斗君の視線の先には、いつも紗花がいたから……」



 そう言った彩花の声には、言い訳でも、後悔でもない。

 ただ静かに、諦めにも似た、淡い想いがにじんでいた。




 葵は、返す言葉を見つけられなかった。




(そうなんだ……、彩姉も、紗姉も、優斗君のことが『好き』なんだよね。

 二人とも、自分の気持ちに薄々気づいていて、でも言えなくて……

 それに、恋のライバルが、自分そっくりな『もう一人の自分』だなんて、

 ちょっと、切ないよね……)




 葵は静かに呟いた。


「優斗君は、二人の気持ち……知ってるのかな?」



「どうだろ?……さすがに、何かは感じてるかもしれないね。

 でも、はっきりとは……わからないんじゃないかな?

 私も紗花も……まさか告白なんて……いくらなんでも、できないよ……」




 葵の胸中は複雑だった。


(こんなこと、誰が悪いわけでもないのに。

 どちらかが選ばれて、どちらかが選ばれない。

 そうなった時、彩姉と紗姉の絆は、どうなるんだろう……?)




 葵は二人の姉の胸中を知るも、三人の恋の行方をそっと見守るしかない。


(私は、彩姉も、紗姉も、二人とも大好きなの。

 だから、二人が奪い合って、どっちかが傷つくなんて、絶対に見たくない!

 ねえ、優斗君。 お願い……彩姉も、紗姉も、どっちも傷つけないで……)




 しかし、いつまでも、このまま……と言うわけにはいかない。


「……もしかしてだけど、お姉ちゃんと紗姉と優斗君の三人で、

 一度会ってみるのはどうかな……?

 その方が──みんな、ちゃんと話せるかもしれないよ……」




(もう、この流れは変えられない。

 それでも、万が一、優斗君がどちらかの姉を選んでしまった場合……

 その時は、選ばれなかった姉のことは、私が妹として全力で寄り添おう……)


 それが、葵にできる、の覚悟だった。




(でも、私は信じてる。

 優斗君なら、きっと誰も傷つけずに──未来を選んでくれるって)




 葵にとって、優斗は共にインターンシップを駆け抜けた同志であり、戦友なのだ。



 今はただ、葵は優斗を信じるしかなかった――

 二人の姉の未来も、彼の答えも、その先にあると信じて。

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