良い点数にはご褒美を。悪い点数にはお仕置きを(2/3)
「……な、な、な……⁉︎」
当たり前の様にオレの隣にいて、彼女の利き手である右手でオレの左腕を掴む彼女はまるで信じられないものを見たかのような声を溢し落としていた。
「どうかしましたか、水無月さん?」
そう言いながらオレは黒髪紅眼の女吸血鬼、水無月かさごの方に視線を向けてみると、彼女は信じられないといった風な愕然とした表情をしていた。
実際問題、オレの呼びかけは彼女の耳には入っていないようであるらしく、ヤツの耳は機能停止するに至っている。
そんな彼女の視線の先にあるのは──今回の中間試験の結果。
吸血鬼の学校であるここにも廊下で成績優秀者の名前を公開するだなんて、人間の学校と似たり寄ったりだなと思いつつ、オレは様々な名前が載っている中で1番上の位置する名前──夜宮璃汐という字を何度も見る。
「……ふ」
いやはやしかし、こういう場で自分の名前が大々的に出ているのを見るのは非常に気分が良い。
昔からよくテストで100点を取ったり、中学の試験で1位を取ったりした事を母に報告して、わしゃわしゃと頭を優しく撫でて貰っていたものだ。
天は二物を与えずだなんて言うけれども、どうにもオレは神から与えられし美貌だけでなく、その美貌に相応しいだけの頭脳まで兼ね揃えているらしい。
頭の良いド美人で大変に申し訳ない。
「ところで水無月さんの名前が1番上にないようですが? おや? 2位? 私の下ですね? 私の名前の下に水無月さんの名前がありますよ? 水無月さんにしては頑張った方じゃないんですか? 普段の貴女の成績は知りませんけど、どうせクソ雑魚吸血鬼ですから成績もクソ雑魚最下位なのでしょう?」
「はー⁉︎ 違いますけどー⁉︎ この私を誰だと思ってるんです⁉︎ 私は今の今まで小中高一貫校であるここでずっと1位を取り続けてた逸材なんですけどー⁉︎」
「それは非常に素晴らしい記録ですね。まぁ、その記録も今しがた私の所為で途絶えてしまった様ですけれど」
「ぐ、む、むむむ……! で、でしたら! 今度は科目別の点数! 人間がやるような普通科目ではなく吸血鬼専用科目で勝負です! 血液数学! 私は97点!」
「私は100点ですね」
「じ、じゃあ吸血鬼歴史! 98点!」
「100点」
「よ、夜宮のくせにやるじゃないですか! 褒めてやってもいいですよ! ですけど流石にこの教科で私に勝つ事は絶対に無理でしょうね! 吸血鬼生物! 9──」
「100」
「コイツ何なんだよぅ……! 顔も良くて頭も良いってコイツ本当に何なんだよぅ……⁉︎」
なるほど。
つまり先ほどの彼女が呆けていた表情を見せていたのは、オレが彼女の成績1位という牙城をいとも簡単に攻略してしまったからなのか。
彼女に対する弁明という訳ではないのだが、オレには全くそういうつもりはない。
テストで解ける問題しか出なかった……それも全教科でそうだったのだから、全教科で満点を取るだなんて自然的帰結としか言い様が無いだろう。
それにオレは奨学金を得る為に人並み以上に勉強に励んでいた為にそこら辺の学生共よりかは勉強が出来る自信がある。
結果から述べるのであれば、これはいわゆる勝手にクリアされる実績のようなものであり、水無月かさごはタチの悪い交通事故に遭ったと思って泣き寝入りして貰う他ないだろう。
「夜宮の余裕そうな表情、めちゃくちゃ苛つくんですけどぉ……⁉︎」
「そうは言いましても事実は事実ですし。何なら隣の席で水無月さんが良い点数を取ったのであろうテスト用紙を持ってニヤニヤしているのを、私は100点満点の答案用紙を持ちながら暖かい目で見守っていました」
「本当に性格悪いですねアンタは! というか! あの時の夜宮はすぐにテスト用紙を隠したじゃん! だからすっごく悪い点数だと思ったのに! それなら私が夜宮に色々教えてあげようかなって思ったのに!」
「あぁ、アレですか。ほら、満点取った問題の解説聞くより次の期末試験の内容をやる方が楽しいでしょう?」
とまぁ、嘘を吐いて。
実際のところ、オレなんていうインテリド美人が周囲のブサイクバカ共にやっかみを喰らう事なんて昔から良くあった。
なので、テスト用紙を返して貰ったら周囲から見られる前にすぐに隠して持ち帰るだなんていう悪癖がついてしまった訳だったりする。
実際、オレを蹴落とそうと目論むヤツらが、オレにカンニング容疑を擦り付けたりしようとしてきた……等と、まぁ良くある話だろうから割愛する。
「さて、全教科私の勝ちですので、賭けの内容的にも水無月さんが私に吸血する訳ですけど」
「……………………そう、ですね」
何故かすっごく不本意そう。
どうしてだ?
今までオレの血を吸うとなれば瞳をキラキラと輝かせていた変態処女厨吸血鬼は一体全体どこに行ったというのか?
実際、吸血する時の気持ち良さを知ったからこそ言えるのだが――そう思おうとしたその瞬間、彼女を吸った時に湧き出てきた、ゾクっとするあの背徳感が脳裏に溢れる。
……まぁ、何だ。
それぐらい吸血をするのは気持ち良いし、水無月かさごが好き好んでオレを吸血しようとしてきた理由にも納得が出来るぐらい、吸血をする事は魅力的だと思うのだが……もしかして、それはオレの思い込みだとか勘違いだったりするのだろうか?
「何はともあれ、こんな人前で吸血されるのも恥ずかしいので寮に帰ってからですね」
「……皆の目の前で吸血されたかった……皆の目の前で、私はご主人様のモノだって、そういう目で見られながらご主人様に吸血されたかった……うぅ……!」
「水無月さん? ぼそぼそと何を言っているんです? 後ろの方々にご迷惑ですからさっさと帰りますよ?」
そんなこんなで何故か茫然自失している水無月かさごの手を引っ張りながら、この場を後にする事にした。
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そして、いつものオレたちの部屋、水無月学園の学生寮の部屋に戻ってきた訳だが。
「……」
「……」
オレはいつでも彼女に吸血されてやってもいいようにベッドの上で横たわり、彼女もまたいつでも吸血が出来るようにオレを押し倒すかのように位置取っている。
何の問題もない。
まるでいつも通りの吸血されるかされないかの瀬戸際。
これからオレは一方的に彼女に血を奪われるだけだって言うのに、水無月かさごはオレの血を吸うのにこれ以上ない程の愉悦と喜びを覚えていたって言うのに。
「よ、夜宮ぁ……?」
「何だよ、水無月」
「や、やっぱり吸うの逆にしません……? ほ、ほら夜宮最近吸われてばっかだったでしょ……? そろそろ貧血になるでしょうからポジション変わってあげますよ……わ、私ったら本当に優しいですね……?」
「いや、オレがこうしてテメェに吸われるのは確か1週間ぶりだったと思うんだが」
「そ、そんなの勘違いですけど」
「テストで全教科100点取ったオレがそんなのを間違えるかよ」
「……ぁ、ぅぅ……で、でも……でも……」
だというのに、今オレを押し倒している――いや、正確に言うのであれば無理やりに押し倒している彼女の瞳の色に隠されているのは目の前で横たわっているオレを、今から吸血されるオレを心の底から羨ましがっているような、そんな瞳。
「よ、夜宮……?」
「何だよ」
「そ、その……私の血を吸って……?」
「さっき持ち掛けてきた賭けの内容と全然違うじゃねぇか」
「それは……その……そう、なんですけど……あの、その……お仕置き、して……?」
「お仕置きって、何の?」
「……わ、私が夜宮にテストで負けたから……数点差で負けたから……今度は私が絶対に勝つ為に……だから、その為に私にお仕置き、して……? これからずっと夜宮にこういうので負けたら夜宮に吸血されるんだって、私にいっぱい教えて……?」
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