生まれて初めて学校を抜け出してラーメン屋へ(2/2)

「オレの母親は火事で死んだよ。オレの中学卒業祝いがてらオレの大好きだった天ぷらを揚げようとしてくれたらしい……家事で火事になるだなんて、笑えるだろ。ははは!」


 笑い声は、聞こえない。


 代わりに「泣きそうな目でそんな事を言うな」と本当に言語化されたような、真剣で綺麗なお人好しな眼差しがオレに突き刺さってくれていた――あぁ、コイツは本当に良いヤツだ。


 良い親に本当に愛されて育てられたのだろう。

 彼女のその行動だけでオレはそれぐらい余裕で理解できて、オレはヤツの事が本当に羨ましかった。


 ……羨ましい。

 本当に、羨ましい。


 オレとは真逆の生き方をしている彼女が本当に羨ましくて、ならない。


「油を揚げる音が苦手なのは……それがきっかけだろうな。良く分からないし、理解しようとも究明したいとも思えないが、それで油を揚げる音が聞こえた所為でみっともなく怯えてしまったって訳かもしれねぇ」


「苦手なモノぐらい、いくらでもあってもいいんですよ。夜宮」


「……そうか」


「そうですよ。私だって苦手なモノぐらいいっぱいあります。虫とか、童貞とか、童貞の血液とか」


「テメェとそれと一緒にすんなよ。まぁ何はともあれ、その場で聞いた事もない幻想の揚げ音がオレに襲い掛かってきたような気がして油の音が嫌いになっちまった訳だ。あー。すっごくつまらない話だったな……ま、少しでも聞いてくれてありがとよ」


「食事前によくもそんな食欲失せる話をしてくれましたね、この童貞人間が」


「悪いな」


「ふん、今回だけは許してあげましょう。そういう事で今回の食事代は全部アンタ持ちって事で1つ」


「譲歩して半分ずつだ。それ以上もそれ以下もねぇ。注文したヤツの金額を見ろ、お前の方が馬鹿みたいに高ぇんだよ」


「うわっ、彼女が1度も出来た事ない童貞みたいな事を言ってる……そんなんだからアンタ童貞なんですよ」


「オレの美貌に怖気付くような女しかいなかっただけなんだが?」


「となると、私って本当にアンタと相性が良いんですね」


「…………全然そんな事ないが」


「面倒くさい性格してる夜宮の照れ顔、かわいいですねー?」


「うっせぇぞ。大体テメェの方が性格が難があり過ぎるだろうが。そうだな、例えば――」


「――はぁ!? 私はそんな酷い性格してないんですけど!? 不細工量産型処女に点数つけて21点っていう赤点女に相応しいニックネームで呼ぶだけの100点満点の美少女処女吸血鬼のどこが酷い性格をしていると言うんです!?」


「自己紹介じゃねーか!」


「それを言うならアンタの方だって――!」


 ――そんな他愛がなくて、話の目的という目的が全くなくて、意味が本当になくて、つまらないと言うべきなのに全然つまらなくなくて、ついつい時間を忘れてしまうような、まるで家族とやり取りをしているかのような時間を過ごしている内に注文していたラーメンがやってきた。


 注文した品を届けてくれた店員から受け取り、感謝の言葉を述べて、オレたちは異口同音で食事の合図をしてから食べる事にした。


「……意外と美味いな」


「でしょう?」


「というか、テメェのそれは本当に何だ。何でチャーシューが皿から今にも出て落ちそうになってんだよ。どうしてラーメンなのに目に見えるのがチャーシューと唐揚げとニンニクの山なんだよ。スープと麺はどこ行ったんだよ」


「超男盛り亀甲縛りチャーシュー特盛唐揚げマシマシニンニク盛り盛り辛塩こってり豚骨醤油大盛り処女メス豚ラーメンですからね。実際、アンタのラーメンも量自体は結構ある方でしょう?」


「言われてみれば、確かに」


「ここ量があって好きなんです。ついでに深夜も営業しているのが本当にありがたくて。普通の店だと学校帰りは空いてない事の方が多いんです」


「あの学園、授業が終わるのがだいだい午前の3時か4時っぽいからなぁ」


 吸血鬼ならではの世知辛さであった。

 だがしかし、ヤツは別に太陽光を浴びて死ぬだとかそういう現象は起こらないので、ただ単純に学校帰りの憩いの場としてここを利用しているだけらしい。


「つーか、ニンニク食って大丈夫なのかテメェ」


「? アレルギーじゃないんですけど?」


「いや、そう言う意味じゃなくてな」


「あぁ。吸血鬼はニンニクが苦手だとかどうとかそういう迷信ですか。アレは偶々ニンニクアレルギーな吸血鬼が過去にいただけです。そいつがオーバーリアクション気味に死んだ所為で他の吸血鬼もそうなんだろうって人間が勝手に判断しただけです」


「へぇ」


「聞いた話によると、大正時代の時に私のお母さんはよく人からニンニクを投げつけられていたらしいですよ」


「それは死にそうだな、相手の方が」


「ですよね。あっ、夜宮そのギョーザは全部私のモノなんで食べないでくださいね。チャーハンも全て私のヤツなんで食べたら罰金です」


「そういうところだぞテメェ」


「うっさいですよ夜宮……っと、麺なくなっちゃった……すみませーん、替え玉超特盛お願いしまーす。今は替え玉無料のサービスタイムじゃない? あ、いいですいいです。お金あるんで構いません。後、チャーシューとギョーザとチャーハンの追加もお願いしまーす!」


「おい待てテメェ。金は本当にあるんだろうな?」


「え? 無いんですか?」


「オレから出させるつもりかよ、テメェ……」


「私みたいな超絶美少女とデートしてるんですよ? それぐらい安い安い。四捨五入したら実質無料でしょう?」


「それを言うんだったらこんなド美人なオレとデートしているテメェが出せよ」


「はー。やれやれです。これだから女と遊んだ経験と金がない童貞人間は」


 吸血鬼をメインターゲットにしようと考えていないであろう、何処にでもあるようなラーメン屋の店内で吸血鬼2人はどうでも良い話をしながら、客が少ない時間帯の夜更けをラーメン屋でのんびりと迎えながら、こんな女と一緒に学校をサボるのは……認めがたいが、本当に楽しかった。


 今までにそんな事を同級生相手に、同性でも異性でもやった事は無かった。

 

 そんな事をしている暇があったら、働きに行っていた訳だから……これはオレにとって本当に初めての事で。


 そんな初めてを彼女と一緒にやれて、本当に嬉しかった。


「ご馳走様でした。次もまた2人で来ましょうね。あ、次来る時はもっと高いヤツ頼みますから、そのつもりで」


「次来る前提で話してんじゃねーよ。全く……次に来たときは絶対に割り勘だからな。オレが全額払うのは今回だけだからなこの野郎」


「ふふっ。それってつまり、夜宮も私と一緒にまた来たいって事ですか?」


「……深読みしすぎだ」


「ふーん? そういう事にしてあげますね?」






~~~

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。


……母以外の誰かと、こうして外でご飯食べるなんて──正直、想像したことすらありませんでした。


いえ、他人の血ならいくらでも吸いましたけど……。


でも、自分のお気に入りの店に、誰かを連れて行くなんて。


そんなの、生まれて初めてのことで。


それもあの夜宮と……。


えっ? まるでデート……?


デートって……あのデート……?


私が……夜宮、と……?


…………?


…………。


…………!?


は、は、は、は、は……はぁ!?


ち、違いますからっ!?

というかですよ!?

初デートがラーメン屋って色々とおかしいでしょ!?

はい論破ァ!


というか私は夜宮の恋人なんかじゃありませんけど!?

デートの意味自体が全然違います!

デートは恋人同士でするからデートなんです!

はい論破ァ!


と、とにもかくにも!

もし気が向いたなら、☆、♡、フォロー、あるいは処女の血をください!

力なくなってマジでヤバいんですホント!

同情するなら処女の血ください、処女の血!


それでは、次の話『夜宮と一緒にお風呂に入るお話』でまたお会いできるのを楽しみにして……えぇ!? ちょ、な、何するんですか夜宮……!?


――童貞に色々奪われた吸血姫より

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