保健室で夜宮が誰のモノかってのを分からせた後のお話
「あー、
「……それはどーも」
大満足だと言わんばかりに笑顔を浮かべ、上流階級の人間が食後にやるような優雅な動作で、水無月かさごは自身の口周りに付着したオレの血液をハンカチで拭い落とす。
しかしながら、まだまだ満足が出来ていないのであろう彼女は舌を使って自分の唇を舐め、彼女の唇に染み込んだのであろうオレの血液の余韻を艶めかしい表情で楽しんでいた。
そんな彼女の動作を見ながら、先程の身体の疼きが数倍マシになった事でようやく考え事が出来そうになったオレは保健室の1人専用のベッドで身を休める事にする。
「……身体だりぃ……」
「はいお嬢様言葉。全く童貞人間は油断したらすぐに素が出るんだから……まぁ、私としてはそっちのアンタの方が好きですけどね」
「媚びを売ってもこれ以上血はやらねぇからな」
「恩は売ったんで充分です」
「お生憎様、もう差し引きは±0だ。それにこれ以上血を吸われたらオレが貧血になって駄目になるだろうが」
オレたち以外誰もいない保健室。
水無月学園は吸血鬼の学校である為か、学校が開いている時間は深夜であり、その所為で保健室の窓から月光が降り注ぎ、白いカーテンを肌触りの良い夜風が撫でていて、1人用のベッドを2人の学生が利用していた。
本来であれば、保健室には養護教諭が1人──ここは吸血鬼の学園なので、正確には人間ではなく吸血鬼なのだが──いる筈なのだろうけれど、水無月学園を利用する吸血鬼が体調不良になるのは、貧血だとかそういう解決方法が実に単純であり、かつ周囲に色々と見せづらい症状である事が大半である為、養護教諭は基本的に空気を読んで席を外すらしい。
実際問題、色々あって身体がそういう事になっていたオレを一目見た保健室の主は、生暖かい笑顔を浮かべてはそっと席を外してくれた……助かると言えば、非常に助かった。
水無月かさごの吸血行為によって乱されてしまった自分のジャージを着直し、服の繊維がオレの肌を覆うと同時に、未だにチクチクと痛む彼女の噛み跡から少しばかりの痛みがやってくる。
別に声を出す程の痛みじゃないし、涙を出す程の痛みでもないし、3歳の時の火傷に比べたら屁でもない。
無視できると言えば間違いなく無視できる痛みではあるのだが、不意打ちでやってきたら無視できない程度の、そんな痛み。
そんな彼女から与えられた痛みによるもの反射的にオレは表情筋を動かし……そんなオレの動作を見て変態女はニマニマといやらしい笑顔を浮かべているのが見えた。
……無視、する。
これを無視しなかったら、絶対に言及されてしまうから絶対に無視してやる。
「本当、夜宮ったら今日も可愛いですね」
だけども、そういう事に聡いヤツはすぐさまオレから血を抜き取った噛み跡に愛おしそうに手で触れ、撫でてきた。
「……ひゃっ……!?」
「あー。もう。本当にアンタってば可愛いですねぇ?」
反射的に、かなり昔に痴漢野郎に尻を触られた時を思い出すような変態的な魔手を振り払い、ベッドから抜け出して安全圏に逃げようとするけれども、そういう事をされて力が抜けに抜けていたオレは、人並み以上の力を持っている吸血鬼の魔手から逃れる事が出来ないまま、抵抗らしい抵抗も出来ないまま、1枚だけの布団だけしかない簡素なベッドの中に再び引きずり込まれた。
「んぐっ……!」
「ご主人様から逃げちゃ駄目ですよ?」
「ふざけんな、お前はオレの主人なんかじゃ――ひゃんっ!?」
「夜宮はいつも男みたいにぶっきらぼうな癖に、こういう時に限って処女みたいな初心な反応をして……本当、アンタって悪い女の子ですね」
「や、やめっ……んっ……! 服脱がすの、もう止めっ……変なところ、触る、なぁ……!」
「変なところじゃなくて、アンタの小さくて可愛くて、そういう事にまだ慣れ切っていない女の子の胸ですよ?」
「こういう時だけ、女扱い、すんなっ……!」
「よく言う。さっきまで私のお母さんに媚毒を注ぎ込まれた所為でいやらしい顔して浮気してた癖に」
「……そ、それは……」
「良かったですねぇ? 頼れるご主人様のおかげで気持ち良くすっきり出来て」
見ているだけで癪に触るヤツの笑顔から逃げる為だけに、ベッドの布団を顔まで掛けて無理やりに遮断する。
そうすればオレはヤツの顔を見る冷静さを狂わされないし、ヤツに少しでも見せたくない恥ずかしい顔を見せずに済む。
そんな一石二鳥な行動をしたというのに、まるでヤツはオレの恥ずかしい顔を布団越しに透視しているかのような笑い声を出して、オレはヤツの勝ち誇った笑顔を脳内で無理やりに再現させられてしまっていて、ベストな行動を取った筈なのに結果として最悪としか言いようが無い行動をしてしまっていた。
「誘い受け、してるんです?」
「してねぇ……!」
「嘘だぁ」
「嘘じゃねぇ……!」
「じゃあ、夜宮の可愛い顔見せてくださいよ。ほら、いつもみたく綺麗なお顔を自慢してくださいよ」
「…………っ!」
「ふふっ、見られたら嘘がバレてしまうから見せられないんですよね? 大丈夫大丈夫、私は分かってますから無理して見せなくて大丈夫ですよ? あーあ。夜宮の綺麗な顔がそういう事をされて可愛くなってるの、また見たかったのになぁ。残念残念」
屈辱で全身がどうにかなってしまいそうだ。
だけども、絶対に今の表情を見せてしまえば今後のヤツとの付き合いで絶対に弄られてしまうのは想像に難くない。
だから、絶対に見せない。
見られたくない。
見られたら、ヤツにオレが逆らえなくなってしまうから、見せたくない。
「さて、夜宮いじめはこれぐらいにして、と……んー。これからどうしますかね。このまま教室に戻ったところでクラスメイトに噂されるのも面倒ですし」
「……噂?」
「問題です。えっちな事で頭がいっぱいいっぱいになって両頬を真っ赤っ赤にして、誰でもいいから気持ち良くしてと無意識に可愛く懇願していた夜宮が保健室で色々してから教室に戻ったらどうなるでしょーか」
「……くっだらねぇ」
「否定しないんだ?」
否定、できな――いや、否定しない。
本当は否定したかったけれど、今更否定したところでヤツにとやかく言われる隙を与えるだけだから、否定しない。
それ以上の理由も、それ以下の理由もない。
実際問題、オレがこうして保健室を利用しているのは事実ではあるが、水無月かさごがとやかく言うような内容は個人的なヤツの意見もしくは感想あるいは所感であって、絶対的な事実なんかじゃない。
だから、事実の体験者であるオレがそういう事を認めたら絶対に否定できなくなってしまうから、必死に否定したりなんかしない。
オレが必死になればなるほど、それがまるで本当に起こり得た事のようになるのだから、極めて冷静にそれを認める。
そうすれば、それ以上もそれ以下もないから、そうする事にした。
「へぇ? つまらない反応するじゃないですか。夜宮の癖に生意気ですよ生意気」
「慣れたんだよ、テメェのやり方は」
「そうですか。こっちも夜宮の照れ隠しには慣れたところです。お互い様……いえ、私の方がちょっとだけ優位ですけどね」
くすくすと人を小馬鹿にするような含み笑いを全力で無視するように、更に布団を深く被る。
それでもヤツの笑い声が消えてくれなくて。
それでも布団の中にまだ残っている水無月かさごの体温も消えてくれなくて。
布団を深く被れば被るほど、ヤツとそういう事をこのベッドの上でしていた事をまじまじと思い知らされて、身体中が熱くなってしまって仕方がなかった。
「さて、ピロートークもこれぐらいしておいて……夜宮、私はお腹が空きました」
「……血はもうやらねぇぞ」
「吸血に関しては満足してますので、もう結構です。そんな事よりも私のお腹が空きました」
「……昼飯にテメェが作った弁当食っただろうが」
「こちとら成長期です。夜宮の料理は美味しかったですが、あれだけでは全然お腹いっぱいになりません。ですので――」
そう言うと彼女は名案だと言いたげに、パンと、両手で乾いた音を響かせて。
「学校サボってラーメン食べに行きますよ」
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ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
意外かもしれないんですけど夜宮って料理が下手なんですよね。
夜宮って何でもそつない顔でこなせそうですし、どうせ料理も上手なんだろうなーって思って作らせてみたら、私以下で!
まさにあれぞ包丁童貞!
えー? こんな事も出来ないのー? と夜宮の目の前でぱぱっと料理をしてやって、出来た美味しい料理を“あーん”で食べさせて、夜宮に悔しそうな表情を浮かべさせるの本当に最高……!
因みに今日作った弁当は、
主菜として
飲み物は保温水筒に入れておいた白味噌風味のけんちん汁。
デザートに私の好物の自家製イチゴ大福……んー。私にしては雑で手抜きなズボラ飯ですね。
ま、理事長室で頑張っているお母さんの為に頑張って作っていたら勝手に上手くなっただけなんで、これぐらいは余裕ですけど……あっれぇぇぇぇぇぇぇぇ???
夜宮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???
えっ嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ???
こんな事もぉぉぉぉぉぉぉ???
出来ないのぉぉぉぉぉぉぉ???
夜宮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???
ふふっ……!
久々に夜宮にマウント勝ち出来て大変に気分が良いので宣伝です!
もし気が向いたなら、☆、♡、フォロー、あるいは処女の血をください!
力なくなってマジでヤバいんですホント!
同情するなら処女の血ください、処女の血!
それでは、次の話『料理上手が過ぎる私が深夜に夜宮とラーメン食べるだけのお話』でまたお会いできるのを楽しみにしていますね。
――実は料理上手な吸血姫より
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