第20話

アッシュの体から放たれる光は、廃墟全体を包み込み、魔王が放つ闇の魔力すらも浄化していく。その光に触れたレイモンドとリリアナは、意識を取り戻し、その光景を呆然と見つめていた。


「あれが……アッシュの、本当の力……」


レイモンドは驚きに声を震わせた。リリアナも、アッシュのあまりにも強大な力に、ただただ息をのむ。


「ディラン……! 俺は、お前を、こんな悲しい魔王にはさせない!」


アッシュは、光を放つ木剣を構え、魔王と化したディランに向かって、最後の戦いを挑む。


「グオオオオオオ!」


魔王は、アッシュの光に呼応するように、全身から闇の魔力を噴き出し、咆哮を上げた。そして、その巨大な拳を振り上げ、アッシュに襲いかかってきた。


「ディラン、もう一度、お前と旅がしたいんだ!」


アッシュは、魔王の一撃を回避せず、真正面から受け止めた。その瞬間、アッシュの体から放たれた光が、魔王の体を包み込み、ディランの心の奥底に語りかける。


(ディラン、思い出せ! 俺たちと、一緒に冒険した日々を! 追放された後、お前がどれだけ苦しんだか、俺は知らなかった。でも、もう二度と、お前を一人にはしない!)


アッシュの言葉は、魔王と化したディランの心に、深く響いた。魔王の体から、苦しむような声が漏れ、その体が光と闇の間で揺れ動く。


「アッシュ……助けて……」


ディランの意識が、一瞬だけ、魔王の体から現れた。その言葉に、アッシュは涙を流した。


「ああ、助けに来たぞ! だから、もう一度、俺と一緒に旅をしてくれ!」


アッシュは、全身からありったけの光の魔力を放出した。それは、魔王を完全に浄化するほどの、強大な力だった。光は魔王を包み込み、その闇を消し去っていく。


「グアアアアアア!」


魔王は、苦しみに満ちた叫び声を上げ、その体が光の粒子となって、空へと昇っていく。そして、最後に残ったのは、かつてのディランの姿だった。


「アッシュ……俺は……」


ディランは、アッシュに、申し訳なさそうに微笑むと、その体も光の粒子となって消えていった。


アッシュは、その場に崩れ落ちた。彼の目から、止めどなく涙が溢れ出す。


「ディラン……!」


レイモンドとリリアナが、駆け寄ってくる。しかし、彼らは何も言わず、ただ、アッシュの肩に手を置いた。


こうして、アッシュとディランの悲しい戦いは終わりを告げた。しかし、これは、あくまで序章に過ぎない。魔王の誕生には、さらなる強大な力が関わっているはずだ。


その夜、アッシュは一人、焚き火の火を眺めていた。彼の胸には、ディランを救えなかったという後悔と、それでも前に進まなければならないという決意が宿っていた。


「ディラン、お前の絶望は、俺が絶対に無駄にはしない……」


アッシュはそう心に誓うと、再び立ち上がった。彼の旅は、まだ終わっていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る