第14話
「リリアナ! しっかりしろ!」
アッシュは鎖で繋がれたリリアナに駆け寄り、その名を呼んだ。彼女の顔色は悪く、辛うじて意識があるようだったが、アッシュの呼びかけに弱く首を振るだけだった。
背後からは、秘密結社の魔術師が放つ容赦ない魔法が迫ってくる。アッシュはリリアナを庇いながら、辛うじてそれを回避する。
「邪魔をするな、アッシュ・フェンネル! この村は、貴様の安息の地ではない!」
魔術師は杖を振り上げ、再び強力な魔法を放とうとする。だが、今のままではリリアナを守りながら戦うことは難しい。
アッシュは決断した。一瞬の隙を見て、魔術師に向かって木剣を投げつけた。
「なっ!?」
予期せぬ攻撃に、魔術師は一瞬動きを止める。その隙をついて、アッシュはリリアナに駆け寄り、鎖を魔法の力で断ち切った。
「立てるか、リリアナ!」
アッシュが支えると、リリアナは辛うじて立ち上がった。しかし、その足取りは覚束ない。
「アッシュ……ありがとう……」
か細い声でそう呟くと、リリアナはアッシュにもたれかかった。
その時、魔術師が体勢を立て直し、激しい怒りを露わにした。
「貴様ら、よくも邪魔をしてくれたな! 思い知らせてくれる!」
魔術師は、周囲の村人たちに命令を下した。操られた村人たちは、再び凶暴な表情でアッシュたちに襲い掛かってくる。
「リリアナ、僕の後ろに!」
アッシュはリリアナを背に庇い、襲い来る村人たちと対峙する。木剣を振るい、一人、また一人と動きを封じていく。しかし、その数はあまりにも多い。
(このままでは、押し切られてしまう……!)
アッシュが焦りを感じ始めたその時、リリアナが弱々しい声で言った。
「アッシュ……私の弓を……」
アッシュは、小屋の隅に置かれたリリアナの弓に気づいた。かつて共に旅をした時、彼女の弓術は何度もアッシュを救ってくれた。
アッシュは、襲い来る村人の隙間を縫って弓を取り上げ、リリアナに手渡した。
「大丈夫か?」
リリアナは頷くと、ゆっくりと弓を構えた。その手は震えているが、その瞳には、かつての射手の鋭い光が宿っていた。
「アッシュ……かつての勘を取り戻すには、少し時間がいるかもしれない……でも、必ず……」
リリアナは、そう言いながら弓に矢をつがえ、放った。その矢は、正確に、操られた村人の動きを封じるように、その足元を射抜いた。
「そうだ、リリアナ! その調子だ!」
アッシュは、リリアナの射撃を援護しながら、襲い来る村人をなぎ倒していく。二人の連携は、かつての旅の中で培われた、息の合ったものだった。
そして、リリアナが数本の矢を放つうちに、彼女の勘は完全に戻ってきた。放たれる矢は、まるで意思を持っているかのように、正確に敵の急所を射抜いていく。
操られていた村人たちは、次々と動きを封じられ、戦意を失っていく。
最後に残ったのは、魔術師だけだった。彼は、信じられないといった表情で、アッシュとリリアナを見つめている。
「な、なぜだ……操られたはずの村人が……!」
「貴様らの操りなど、この村の者たちの強い意志には敵わない!」
アッシュは木剣を構え、リリアナと共に魔術師に迫る。
追い詰められた魔術師は、最後の抵抗とばかりに、強力な魔法を放った。だが、その魔法がアッシュたちに届くよりも早く、リリアナが放った矢が、魔術師の杖を射抜き、粉々に砕いた。
杖を失った魔術師は、力を失い、その場に崩れ落ちた。
「これで終わりだ」
アッシュは、魔術師に木剣を突きつけた。
「ま、待て……! 私はただ、組織の命令に従っただけだ……!」
「貴様らの『計画』は、ここで終わりだ」
アッシュは、冷たい声でそう言い放ち、魔術師を捕らえた。
こうして、アッシュとリリアナは、秘密結社の魔の手から村を解放することに成功した。しかし、これはまだ、彼らの戦いのほんの一部に過ぎない。
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