異世界を救ったユーシャで落語家の私の弟子になった金髪美少女は、転生してきた魔王で仲間でカノジョだった件
春風亭吉好
第1話 朝目覚めると金髪碧眼の美少女がいた件
「ユーシャ……これで終わりよ……」
「魔王……ううん、カノン。ええ、終わりにしましょう」
ここ魔王城グランパレスはもう半壊していた。仲間である戦士ヒルン、魔法使いアーサーも倒れている。
あとは勇者である私がなんとかしないと……魔王を倒さないと世界は崩壊してしまう。
魔王は手を掲げ魔力を溜め込んでいる。魔王の掌を中心に膨大な魔力が収束していく。私が……私達が命懸けでダメージを与えたのにまだこれだけの力があるなんて。私も聖剣ウインドに力を込める。
「いくよ……カノン!」
「ユーシャ……」
私は全力で駆け出した。崩れゆく城の破片を避けながら魔王カノンへ近づいていく。カノンの懐へ入り抜刀しかけたところでカノンが魔力を溜めた手を振り下ろした。
「しまった……!」
魔法の直撃をモロに喰らうかと思ったらその魔力の塊は宙に放たれていて、何もない掌がおろされただけだった。私は勢いのまま抜刀しカノンを薙ぎ払った。
目の前を見ると真っ黒だった魔王カノンの髪の毛は綺麗な金色に変わっていた。
そう、決着の直前に魔王カノンからカノンへ。私達の仲間だった神官カノンへ。私の愛しい人だったカノンへ戻っていたんだ。
「ユーシャ……ありがとう……愛してる」
「カノン! いやっ、いやぁぁぁぁぁぁ!」
私は魔王であり、かつての仲間であり、そして最愛の人を斬ってしまったのだ。
崩れゆく世界の中で私の意識は途絶え、そして……
「ふぁぁぁぁ……。あの時の夢か……」
目を覚ましあくびをすると自室の布団だった。
久しぶりにあの時の夢を見た。2年前に交通事故で意識不明だった私が1ヶ月の昏睡状態の間に見ていた夢。勇者として異世界を救う冒険の旅をしていた夢を。
私は紗綾(さあや)。20歳のピチピチの乙女(死語)だ。
紗綾というのは本名。なぜわざわざ本名なんて言うかというと他に芸名というものがあるからだ。
部屋の机の上には『日暮や夕紗(ひぐれやゆうしゃ)』と掘られた招木が飾られてある。
これは私の芸名。そう、私は落語家なのだ。
父は落語家の日暮や夕立(ひぐれやゆうだち)。今年50になる落語家真打だ。
私はその娘として産まれ小学校卒業と共に入門。親父がゲーム好きで、ゲーム関連の仕事もしている事もあり、夕の字と私の紗の字を取り『夕紗』と名付けられた。最初はおいおいと思った芸名も長年名乗っていると愛着も沸く。
入門してから中学生の間は学校に通いながら寄席修行。入門から3年間は前座修行といって毎日寄席の楽屋で楽屋修行しなくてはならない。
15で落語家として前座の次の位にあたる二ツ目に昇進。そして19で異例の抜擢で真打に昇進した。
親が落語家だからというだけじゃない。あの時の……アレがキッカケで私の落語がガラッと変わり実力が認められたのだ。
「あー、頭いたー……。飲みすぎたせいかなー……」
二日酔いの気怠さが残っていたがなんとか身体を起こし、久しぶりに見た夢に思いを馳せる。
私は2年前に事故に遭って生死の境を彷徨い1ヶ月の間意識不明だった。そこからの生還のニュース、そしてその意識不明の間に見ていた夢の経験を落語にした事により一気に注目を浴びた。
私の見た――私が異世界の勇者となり、魔王を倒し世界を救う夢。そんな夢で見た異世界での冒険の旅をネタに落語をアレンジした『ファンタジー落語』である。
ちょうどライトノベルやアニメで異世界ものがヒットしていた事、私が美少女だった事(ここ大事!)、ついでに親父がゲーム好きでそっちの業界にパイプを持っていた事もありファンタジー落語は大ヒットした。寄席に新たな客層を呼び込み私は一躍と超売れっ子に。抜擢されて真打昇進したのだ。
真打になってから一年。昨日は私が初めて寄席でトリを務めた興行の最終日だった。
落語家のホームグラウンドな劇場である寄席(よせ)。その最後の出番に上がるトリをとることは大変栄誉な事であり、同時にプレッシャーもある。ましてや私は他の同期より数年早く真打に昇進したため注目も集まる。
蓋を開けてみたら連日満員、普段寄席に来ない若いお客さんもいて大成功の興行となった。終演後には親父……師匠ほか出演者一同での大打ち上げがあったのだがそこで飲みすぎてしまったのだ。親父が酒好きな事もあり私もそこそこ……結構好きな方だ。え? 20歳なのにもう酒の味を覚えたのかって? 20歳になってからオボエマシタヨ……。
「とりま起きるか……」
今日は休みで特に予定はない。とはいえ二日酔いで何もせずダラダラしているほど非生産的な事はない。まずは布団を片付けようとかけ布団を捲ると
「ん……なんだ……?」
そこにはなんと女の子が寝ていた。見覚えのない小学生くらいの、金髪の美少女が寝息を立てていたのだ。突然の事態に私は仰天した。
「だだだだだ、だれー!?」
「ファァァァ……あ、おっはよ〜」
驚き少女を指さす私とは反対に、あくびをし朝の挨拶をする美少女。
そう、本当にまごう事なき美少女なのだ。金髪碧眼で肌は妖精の様に白く、そこらのアイドルも敵わないほどの、二次元から飛び出してきたような。そう、まるであの夢の……。
というかなんで美少女が一緒に寝ていたんだ? 打ち上げの後半の記憶が曖昧だけど酔った勢いで女の子を連れ込んだのか? だとしたらありえない。こんな子供を……誘拐じゃないか!
「やっば、捕まるの私……」
「どうしたのユーシャ? 何ブツブツ言ってるの?」
やらかしたかもしれない事に恐怖し独りごちる私を前にキョトンとする美少女。何やら親しげだが私の事を知っている……?
「えっと……あなたは私の事を知ってる……?」
「モチロン! アナタはユーシャでしょ?」
「うん、私は日暮れや夕紗。あ、寄席に来ていた子?」
「それもそうなんだけど、アナタはユーシャでしょ」
どうにも話が噛み合わない。夕紗の響きがただ片言というだけでなく……?
私の疑問を察したのか美少女が言葉を続けた。
「アナタは私の世界を救った勇者様。勇者のユーシャ。私の仲間で、最愛の人で……私を殺してくれたユーシャ!」
「は……?」
美少女の言葉に絶句する私。なぜ私の見た夢を知っている? しかも今の言葉に当てはまるのは……
「もしかして……まさか……アレは夢じゃなかった……!? そしてあなたはもしかして……カノン?」
「そうよ。夢なんかじゃない。それに仲間の……ううん、彼女の事を忘れちゃった?」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
目の前の美少女は私の夢の中の冒険が事実だと言い、自分がその時のパーティーの神官であり、私の最愛の彼女。そして色々あって魔王として目覚てしまい、世界のため私が倒した魔王でもあるカノンだと言う。
いや、落ち着け。仮に夢が事実としてカノンは私と同じ歳、当時は17だったはずだ。金髪碧眼は一緒だがこんな子供じゃない。それに確かにあの時に倒したはず。
「色々と飲み込めてないけど……アンタなんで生きているの? それにこんな子供じゃなかったはず……」
「あ、ユーシャに倒される前に魔力溜めてたでしょ。あれで転生したの。賭けだったけど上手くいったわ。魔力足りなくて子供になっちゃったけどね」
「なんと……」
確かにあの時に宙に魔力を放っていたけれどアレは私を倒したくないとかじゃなく、最初から転生に必要な儀式だったんだな。それで上手く転生できたと。
情報量が多くて未だ整理できていないが……
「とりあえず……生きていてくれて嬉しいよ……カノン」
「私もよ。これからはずっと一緒ねユーシャ……ううん、シショウ!」
「は? 師匠?」
「転生してからこっちの世界の事、あなたのお仕事の事を調べたの。あなたのやってるラクゴカの師匠と弟子って家族よりも、恋人よりも切っても切れない関係なんですってね。とってもステキ! ラクゴってなんだかわからないけれど、私はアナタとずっと一緒にいたいからアナタの弟子になる事にしたのよ。アナタも昨夜弟子にしてくれるって言ったじゃない」
「え、いつ……?」
「言ったじゃない。弟子にしてくれるって。だいぶ酔ってたみたいだけど。だからよろしくね。シショウ?」
「は、は、ハァァァァァァァァー!?」
目覚めてから何度目かの絶叫をした。
私は酔った勢いで異世界から転生してきた仲間で魔王で彼女を弟子にしてしまったようだ。
初めての弟子がそんな複雑な間柄ってどうなっちゃうの……?
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