第36話 トイメトアの決戦①

「こちらF隊、潜伏位置に到着しました」

『了解した。指示があるまでその場で待機だ』

「承知しました」


 通信機能。モクトスタの特殊能力の一つだ。

 僕らは今トイメトアとイルアの境目、とある民家の中に潜んでいる。


 作戦は、まずここからトイメトアの郊外を縦横無尽に動き回り、セイダルの指揮系統をできるかぎり混乱させる。

 ブレイブは目を引くし、僕もそれなりに有名人だ。向こうも無視はできないはずと踏んでいる。

 向こうがこちらへ戦力を割いたところで、本隊から離脱したニュドニアの部隊が少しずつせん滅していく。ある程度敵の戦力を削いだところで、拠点を一斉攻撃する流れだ。


 いまだに不安の声も多くあったけど、少数精鋭の機動力が僕らの売りだ。そう簡単にやられるつもりはない。

 チームメイトは隊長の僕、主砲のイアン、小器用なダン、連携に定評のあるアンドリュー、バートン、セドリックの六人だ。ここに特別指揮官としてブライトルが加わる。彼自身もイエローランクのマスターなので、モクトスタを通じて高精度の通信ができるのも利点だ。


『出撃まで残り一分だ』

「はい」


 ジリジリとした空気が、少しずつ重さを増して背中にのしかかる。


『……懐かしいな』

「……ヴァルマ特別指揮官?」

『まさか、あの昼食のメンバーが、こんな風に集まることになるなんて、思わなかった』

「そう、ですね……」

『また、みんなで昼食を取ろう』

「指揮官……」

『――あと二十秒』


 誰かが喉を鳴らす。みんなが力んでいるのが空気で分かる。

 僕は自分の首元を見た。モクトスタを装備しているから見えないけど、そこにはシルバーのチェーンがある。


『十秒』

「殿下、約束ですよ」


 僕の言葉に全員が息をのんだ。ブライトルもだ。


『っ、五、四、三、二、一、出撃!』


 一斉に民家の壁を突き破って外に出た。

 派手な音に、見張りのモクトスタが反応する。

 でも、気付いたときにはもう遅い。


「イアン!」

「うん!」

 目の前にはすでにブレイブがいる。大ぶりなかぎ爪が一振りされただけで、敵のモクトスタは簡単に破壊された。

 見張りの数は三人。

 イアンが倒した次の瞬間には、ダンやアンドリューたちが敵モクトスタを破壊していた。僕が出るまでもない。


「セドリック、サーチ」

「やっています」


 ダンやアンドリューたちの機体は汎用機だけど、それぞれ付属機能を強化してもらっている。

 三人の中でも冷静なセドリックは、サーチ能力の精度を上げた機体だ。


「半径一キロ圏内に敵影ありません」

「よし、進むぞ!」

「はい!」



 僕らのルートはトイメトア東側をジグザグと進み、一度中央へ方向転換する。そのまま拠点となっている元・役場を狙うと見せかけて通過。

 南側――ニュドニア中心地側――からの援軍と合流し、指示に従い今度は西側へ。

 東側同様に攪乱している内に、拠点への一斉攻撃の指示を待つ予定だ。


 脳内に叩き込んだ地図とブライトルからの指示を元に順調に東側を制圧していく。

 ブレイブの機動力は勿論だけど、三つの武器を器用に扱うダンのテクニック。三人揃えば僕でも敵わないのではないかと思えるほどの連携を見せるアンドリューたち。実戦では初めて使うことになったけど、新型のモクトスタを装備する僕。

 中央本隊の援軍もあり、進路変更地点を過ぎて少し進んだところまで問題なくやって来れた。


「止まれ。セドリック、サーチ」

「はい……。半径二キロ、敵影ありません」

「よし。ヴァルマ特別指揮官。休憩の許可を」

『少し待て』

「はい」

『許可する。十五分だ。五分毎に見張りを交代するように』

「承知しました。R部隊、聞こえますか? F部隊、隊長エドマンド・フィッツパトリックです。十五分の休憩を取ります。五分毎の見張りの交代をお願いします」


 ダンに見張りを指示して僕は近場の瓦礫の上に腰を下ろす。

 イアンたちはすでに水分と携帯食を口にしていた。誰も口を開かない。

 大きな怪我をしたわけじゃない。

 呼吸が荒くなるほどじゃない。

 でも、明らかに疲れが出始めていた。

 僕たちはどの隊よりも行動範囲が広い。最悪の事態を考慮して、逃げる足を残しておく必要がある。体力は温存しておきたい。こまめに休憩を入れるのはそのためだ。


『F隊、R隊。現在の拠点付近の状況を伝える。戦況は互角だが、君たちの活躍によって徐々に敵の戦力が落ちてきていると報告が上がっている。この調子で進軍を頼む』

「承知しました!」

「時間だ! F隊、出発する」



 拠点付近になると一気に敵の数が増えてきていた。その分味方の助けもあったけど、全く戦わないわけじゃない。明らかに進軍スピードが落ちる。


「反応あり! 敵兵近づいてきます! その数……二十!」

「R隊、聞こえましたか。敵兵二十確認。対応をお願いします」

『R隊、承知しました』


 僕らは味方が戦う間を縫うように戦場を駆ける。あくまで目的は攪乱と最後の一斉攻撃だ。

 そうして何とか抜け出た先にあったのは、崩れ果てた巨大なホール跡地だった。


「突っ切りましょう!」


 僕は了承しようとして開いた口を一度閉じた。

 肩から首の後ろにかけて、何かがピリピリと走った。


「隊長? どうしました? 早く……」

「入るな! 嫌な予感がする。ここは迂回する」

「ですが、両端は混戦地帯となっています。抜けるには時間がかかります!」

「ヴァルマ特別指揮官、聞こえますか。……ヴァルマ特別指揮官? 応答願います! ヴァルマ特別指揮官! ……作戦本部! 本隊長! ダメか……!」


 ブライトルやその他の隊に通信を繋げようとしても、聞こえてくるのはジジ、ジジジというノイズだけだった。

 ――マズい。


「どうしましたか!」

「通信妨害だ」

「何だって……!」


 セイダルはモクトスタの通信妨害機能を開発していたんだ。全員に動揺が走る。


「後方! 敵兵目視できます!」

「っ応戦しろ!」

「はいっ!」


 ホールの入口を背に敵モクトスタを迎え撃つ。

 決定的にこちらが不利だった。向こうは僕らを中へ押し込むのが目的なのが明らかだったからだ。


「イアンッ!」

「なに!」

「ダンを連れて、上空から離脱しろ!」

「何を……」

「この先は間違いなく罠だ。全員が潰されるわけにはいかない。援軍を呼んで来い!」

「でも……!」

「早くしろ! このままでは作戦に支障を来す!」

「でも!」

「……イアンッ! 行くぞ!」

「ダン!」

「必ず助ける! こらえてくれ!」

「……っ! 絶対戻るっ!」


 イアンがダンを抱えて上空に舞う。

 僕らは迫る敵兵と対峙した。数も実力も大したことはないものの、ヒット&アウェイを繰り返されて、体力だけを消耗していく。正に前門の虎後門の狼だ。




「うぁぁぁぁ!」


 暫く交戦していると、三人の中で最も腕の立つアンドリューが槍を思い切り横に薙いだ。気迫の籠った雄叫びに敵兵が後方へ跳び退る。アンドリューが追う。


「待て! アンドリュー! 深追いするな!」

「すみませんっ! モクトスタが、もう限界です……!」


 敵モクトスタ一体を破壊したと同時に、彼のモクトスタが解除されその場に倒れる。


 ガキィン!

 間を空けず、高い音を立ててバートンの最後の武器が折れた。


「クソォ……! セドリック! 頼んだぞ!」


 そう言うとバートンは敵兵二人の体を巻き込んでブースト・トリプルを発動して瓦礫に突撃した。凄まじいスピードに兵たちは引きずられ、モクトスタが解除される。彼の強化機能はブーストだ。

 僕とセドリックは背中合わせの状態で敵兵四人に囲まれた。


「セドリック、アンドリューたちを連れて混戦に飛び込め」

「エドマンド様……?」

「恐らくR隊はもう来ない。分かるな? 前から更に三体きている。これ以上は、無理だ」

「エドマンド様!」

「行け」

「できませんっ!」

「行けっ!」

「僕らは! 貴方の正義に救われたんだ! 鼻つまみ者だった僕らに、正義をくれたのは貴方だ! だから! 絶対に! 離れません!」

「僕は死なない! 約束したんだ! だからお前も生きろ!」

「エドマンド様……」

「行けっ!」


 そう言うと、僕は渾身の力でセドリックの背中を押した。

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