02-01「サマー・フレンド」




 02「サマー・フレンド」




 いきなり声を掛けられて、千晴はビクッと肩を跳ねさせた。


 思わず手を滑らせそうになったスマホを握り込んだまま、何もなかったふりをして顔を上げる。

 意外に近いところ、十歩ほど離れた石畳の上に知らない人が立っている。


 声の主は、美人なおねえさんだった。


 日焼けした肌を際立たせる、夏物のシャツを羽織っただけの涼しげな格好。

 ウェーブの掛かった髪はサイドポニーっぽくまとめられている。

 ビギナー・JKである千晴には、やけに大人っぽく見えた。大学生くらいだろうか。


「驚かせちゃったかな? 悪いね。ずいぶんと手間取ってるみたいだったからさ」


「あいや……助かります」


 困ったような笑みを浮かべて近付いてきたおねえさんに、千晴はとりあえず会釈した。


 はて、しかし。

 この神社、さっきまで自分以外に誰もいなかったはずだが……。

 一瞬「この人どっから来たん?」という疑問が湧いたものの、わからなかっただけで本殿の裏手側から登ってくるルートとかあるのかもしれない。


 関係者ってわけでもなさそうだ。

 千晴の中では、神社で働く女性=巫女服着用のこと、なんて図式が成り立っている。

 おそらく、目の前の人物は親切で協力を申し出てくれた参拝客同類なのだろう、とあたり・・・を付けた。


「それじゃ、撮るよー」


 差し出された手にスマホを渡して、鳥居の前でポーズを決める。

 今度は両手が空いたので全力ダブルピースの構えである。出し惜しみはしない。

 微笑ましいものを見る目に気付いて、なんだか気恥ずかしくなった。


 それから数枚パシャって「こんな感じ?」と画面を見せてくれたおねえさんにひとつ頷いて礼を述べる。


「どうも。助かりました」


「全然。――良いだね。楽しそうなのが伝わってくるし」


「え、ホンマですか?」


「うん。夏って感じがする」


 シャッ、シャッと写真をスライドさせて確認している千晴の横で、画面を覗き込んだおねえさんがほめてくれた。


 ならばよし! 


 〝夏をエンジョイしてる感〟という当初のテーマは無事に達成できたようだ。


「あとはこいつをグループで共有すれば――今日の、分は……っ⁉」


 喜びもつかの間、これがまだ一日目でしかないことに千晴は気付いた。

 新学期までこんな調子がずっと続くのは……まあまあ・・・・の苦行かもしれない。知ってたけど。


「ね、キミ……えーと」


 思わず渋い顔をしていると、おねえさんが何かを思いついた様子で話しかけてきた。

 と、ここで改めて自己紹介タイムである。


「あっ、長弖です。長弖千晴。せんばれ・・・・の」


「せん……千晴ちゃんね。アタシは渚。

 

 ――これから時間ある?」



 いたずらにでも誘うような声色で。


 夏の日差しに負けないくらい眩しい笑顔を浮かべつつ、渚は境内の奥に視線を遣った。







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