21cmのメッセージ

夢見楽土

第1話 鳥肌メッセージ

 ある暑い夏の夜。某県の天文台職員である山野は、その波長から21cm線と呼ばれる1420MHzの電波受信結果を見て、全身の鳥肌が立つのを感じた。


 ヘルクレス座方面から届いたその電波は、周波数の高低が何らかの規則性をもって並んだものとなっており、それが数分ほど継続していた。


 どうせまた地球由来のものか単なるノイズだろう……山野はそう思おうとしたが、直感がそれを強く否定していた。


 21cm線・1420MHzは、宇宙観測に支障をきたさないよう、地球での送信は行われていないはずだ。それに、この規則性。周波数の高低が単純に続くのではなく、まるでモールス信号にように何らかの情報を伝えようとする意志を感じさせるものだった。


 山野は、未だ消えない両腕の鳥肌を交互に擦った後、他県の天文台職員で、SETI(地球外知的生命探査)に詳しい知人の川端に「未検証・参考情報、だが鳥肌もの」という件名で観測結果をメールで送った。


 規則的な電波は、山野の天文台で最初に受信したものも含め、短期間で計3回受信された。山野のメールをきっかけとして、他県・他国の天文台や研究機関でも後半の2回を受信することができたが、その後観測されなくなった。


 これら受信された電波は、山野の最初のメールにちなみ、「鳥肌メッセージ」と呼ばれるようになった。



 † † †



「こ、これって、もしかして?!」


 翌日の夕方、ルーティンの仕事を全力で片付け、昨晩に受信した3回のデータのうち最初のデータを分析していた山野は、一人驚きの声を上げた。


 規則的な周波数の高低差は、きっかり10Hzだった。そして、その周波数の高低による情報量のビット数は1679。


 1679は、23と73という2つの素数の積。山野は、この数字に見覚えがあった。急いでノートパソコンのデータ上に横23、縦73のマス目を作り、周波数の高低によりマス目の左上から右に向かって順番に右下へ色を塗り潰していった。


「やっぱりアレシボ・メッセージだ。しかも逆さま……」


 ノートパソコン上には、「アレシボ・メッセージ」が上下逆さまに浮き上がっていた。


 アレシボ・メッセージは、1974年にプエルトリコのアレシボ電波望遠鏡から約2万5100光年の彼方にあるヘルクレス座球状星団M13へ向けて送信されたビット数1679のメッセージだ。


 このビット数1679は、素因数分解すれば23、73または73、23となり、受信側が二次元のマス目にデータを並べることを推測し易いように意図したものだ。


 送信した2進数を横23、縦73のマス目に左上から右に向かって順番に右下まで並べていくと、DNAの二重螺旋や人類の姿等がドット絵で浮かび上がるようになっていた。


 それがそっくりそのまま上下逆の絵になるとは。自然現象とは到底思えない。


 そして、2回目と3回目に受信した電波は、ビット数がそれぞれ2291と2573。何か意味があるはずだ。


 山野は、川端に現時点の検討状況をメールで共有し、引き続き分析を続けた。

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