第1話 領地へ到着

「陛下、領地に入りましてございます」


 騎士のクシャルフトが馬車の窓越しでに対して大公領に入ったことを報告する。

 思えば領地に到着するまで、王都から約一ヶ月程の長い道のりであった。若くてもサスペンションの無い馬車での移動は辛いものであった。道も舗装されていないため、悪路や難所も多く辛い旅だったと言える。


 王宮から出ることは滅多に無かったため、新鮮な気分であったが、その想いは王城を出てすぐに潰えてしまった。

 中世風異世界ファンタジーの様な世界であるとは思ったが、創作モノの様な明るい雰囲気では無く、本当の中世レベルの世界だったのである。

 王都でさえ道の大部分は舗装されておらず、王城から離れるほど、街の中は饐えた臭いが漂っていた。

 王城から王都の門までの表通りは、まだそれなりに見映えのする建物が建ち並んでいたものの、脇道に逸れれば、見窄らしい建物が散見されるそうだ。


 領地までの道中も町や村は規模が小さく貧しさが垣間見える。政が悪いと言うよりは、技術レベルが低いのだろう。庶民の生活水準の低さを実感させられることとなった。

 そんな中でも、道中の町や村で滞在した際は、彼らから可能な限りの歓待を受けている。王城ので過ごすことに比べることは出来ないが、王城での生活も21世紀の日本に比べたら酷いものだった。


 町や村での滞在より居心地が悪かったのは、各地の領主たちの拠点に滞在した時であろう。前国王であることやクーデターで譲位させられたことから、弱い元国王として歓迎されないことが多かった。

 彼らの拠点の中でも、屋敷でなく城の場合は酷いものだ。城は軍事拠点であり、居住性が悪い。城の中は薄暗く、床は藁が敷き詰められ、汚物が散見されたり、鼠や虫が湧いていた。

 客間代わりの大広間に纏めて寝かされたのもイヤだったが、家臣たちが不寝番で警護出来たので却って良かったのかもしれない。


 王都から離れれば離れるほど、町や村との間隔が大きくなり、野営する必要もあった。

 野営にも慣れてきた頃合いで、我々一行は領地へと入ったのである。

 しかし、我が領地は他の諸侯に比べると広大かつド田舎であるため、中心地へ到着するまで大変であった。


 王領の頃は放置気味の領地であったため、悪路が多く、数日を費して大公領の領地の中心となるザーガンヴェント辺境伯領へ到着した。


「陛下、ザーヴェルとフォロンが見えてきました」


 騎士クシャルフトが領内に入った時と同様に馬車の窓越しに報告する。

 ザーヴェルとフォロンはプフドレ川の複数の中州に築かれた町であった。隣接した中州の町でありながら、別の町となっており、ややこしそうな背景がチラついている。


 ひどまず、我々は橋を渡って、ザーヴェルにある領主の居城へと入城したのであった。

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