第13話 長七郎江戸日記

 今回の長七郎江戸日記の主人公、速水長三郎こと松平長七郎はとある歴史上の人物の遺児という事になっています。

 その人物は駿河大納言。


 二代将軍徳川秀忠の妻は浅井長政とお市の三女のお江。

 戦国時代、丈夫な男の子を産める女性というのは非常に重宝されました。ただ、お市にしろ、お江にしろ、子供はできるものの娘ばかり。お江は「女腹」だから側室を持つようにと、父の家康から秀忠は何度も忠告を受けています。


 秀忠には生涯三人の男児が生まれています。

 嫡男は三代将軍家光。次男は忠長。三男はお江の子ではなく妾の子で、お江に隠れてこっそり産ませ、信濃高遠の保科家の養子となりました(後に会津に転封)。

 この次男の忠長が前述の駿河大納言です。


 昨今では実は家光は春日局と家康の子(家康の末子)では無いかという説もあるそうですが、一応、お江の実子という事にしておきます。

 なかなか息子が生まれず、待望の男児が家光だったのですが、そのすぐ後に忠長が生まれました。


 父である秀忠ははっきり言って色々と失敗しました。家光の幼名は竹千代、これは祖父である家康の幼名です。一方の忠長の幼名は国松丸、どことなく秀忠の幼名である長松丸に似ています。家光の家は家康の一字、一方の忠長の忠は秀忠の一字。

 若い頃の家光は完全なお爺ちゃん子で、秀忠、お江夫妻は次男の忠長の方を可愛がっていました。


 問題は家康が亡くなった後。そんな経緯だったので、お江に嫌われていた家光は後見を失って廃嫡されるのでは?という噂が立ってしまったんです。秀忠はのらりくらりと誤魔化していたのですが、当の忠長はすっかりその気になってしまっていました。


 秀忠が隠居し家光が将軍に就任すると、忠長は荒れました。しかもその後すぐ、母のお江が亡くなってしまう。完全に家光とは境遇が逆転し、後見の無くなった忠長の立場は非常に危ういものになってしまったんです。

 荒れた忠長の数々の乱暴狼藉が家光の耳に入り、ついに忠長は改易。その後切腹処分となりました。


 忠長の享年は28。妻もおり数人の妾もおり、荒れた生活をしていたとなったら、子の一人や二人はいそうなものですが、実際には子はいなかったらしいです。

仮に男児がいたら、その後色々と面倒になるのは誰の目にも明らかで、こっそり始末された可能性は非常に高いでしょう。

 そんな風に思った人たちによって松平長七郎長頼の伝説は生まれたのでしょう。


 話の流れは以下の通り。


悪幕閣によって町人が虐げられる

↓ 

長さんがそれを知り、旧駿河藩士や密偵に調査をさせる

悪人判明

駿河大納言の忘れ形見だと名乗り葵の紋を悪幕閣に見せつける

「俺の名前は引導代わり! 天に代わって貴様達を、斬る!」

よく斬れそうな二本の刀で悪人たちをばっさばっさと斬っていく


 こう見てきても典型的な江戸日記ものの流れです。

 特徴的なのは速水長三郎を名乗っている時は町人の髷で、殺陣の時には武士の髷になっており、細かい点ではありますけど、身分をちゃんと表現している事。

 それと他の作品ではあまり見る事の無い、二刀流のダイナミックな殺陣です。



 実はこの松平長七郎を題材にした作品は二つあります。

 今回の長七郎江戸日記の前に、「長七郎、天下ご免!」という作品が放送されていました。しかも江戸日記が日テレ系列、天下ご免!は朝日系列。

 普通こういう場合、主役のキャスティングを代えるものだと思うのですが、どちらも里見浩太朗が演じているんです。

 ただし、天下ご免!の方は、速水長三郎じゃなく、「結城長三郎」になっています。


 結城は、秀忠の兄で福井藩主である秀康の姓。ちなみにこの長頼という名は、結城秀康の嫡男で改易になった忠直の次男の名前だったりします。

同じ改易になった一門という事で色々と重ねて見られたのかもしれませんね。



 次回は着流しの恰好良さなら時代劇一、御家人斬九郎を取り上げようと思っています。


   

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