ゴリっ腹。凸(`Д´#)ノ

 ——アブラヤシのプランテーション。


 見渡す限りのアブラヤシ。

 植えては切って、そればかり。


 今日は非番の油売りゴリラが多い。

 裏切り者どもめ。どうせ、中途半端に立派な中古物件で、ソファ上・揚げ芋・テレビ視聴——カウチポテト——でもやっているのだろう。

 えーっとつまり今、プランテーションの強制労働を見張る者は少ない。

 これは……蜂起ほうきのチャンス。

 仕事放棄して蜂起しよ。

 俺はアブラヤシの切り屑をかき集める用のほうきをポイと捨てる。

 ニシローランドゴリラ解放戦線——〈抵Ωオメガ〉!

 が、シマサク父さんは毎度よくわからん長老の務めがあるようだし、レイチェル母さんも巫女みこ雨乞あまごいの仕事で、忙しいらしい。

 ああ、今日も単独行動になるな、トホホ……

 行くぜ、俺ゴリラ、徒歩かちにていでにけり。

 ウホ。




 🦍🦍🦍




 ——ここ一帯にはバナナの皮が多い。


 クンクン、ウホウホ。

 甘くれた香りがする。

 見渡す限りのバナナ、の皮。

 舗装ほそうされたほっそい道の上では、バナナの皮は映えないな。

 森みたく、微生物による分解はさかんでないし。

 後ろを振り返ると、森は小さい。

 遠近法のせいか、自然破戒のせいか、その両方か。

 おっと、バナナの芳香ほうこうに誘われて彷徨ほうこうしていたら、つい遠くまで。

 方向は、こっちであってるよな?


 あったぞ、家だ。

 中途半端に立派な家々。

 おそらく、白い奴ニンゲンからのお下がりの、中古物件。

 俺は、うち一軒の窓をのぞき込む。


 カウチポテト族の家族がそこにいた。

 あいつらは、白い奴ニンゲンがこの赤道ギニアの地に持ち込んだ、ソファとかいうフカフカのやつの上に寝転んで、アブラヤシから取れたパーム油で揚げたポテトチップスをポリポリポリポリと下品に喰らいながら、洗脳めいた放送ばかり流している薄膜の電影投影機——テレビ——を無思慮にぼおっと眺めては、唐揚げ特集を視聴、串カツ巡り番組を視聴、ラクトアイスのコマーシャルを視聴して、アブラヤシの大量生産がいかに世界の白い奴ニンゲンたちの生活をいかに豊かにしているかを確認して、裏切りを正当化する。


 この中古物件の思考停止ゴリラと同じように、リアム兄さんも、俺たち家族を、森守りのニシローランドゴリラを、そして母なる森を裏切って、白い奴ニンゲンの言いなりになっていると聞いているが……


 ウホほっ!?


 噂をすれば……

 あれは……


 間違いない。

 見紛みまがうはずはない。

 立派に隆起りゅうきした胸筋。

 数多の竜を狩りし竜騎士も恐れおののくほどの、豪としたケツ毛。

 かつてのニシローランドゴリラの豪傑ごうけつ、リアムだ。

 正真正銘、俺の兄さんだ。


 俺は、手枷足枷てかせあしかせめ、おまけにずっしりとしたラジを背負わされた、とらわれのリアム兄さんを発見したが……


 なにやら様子がおかしい。


 リアム兄さんの両脇には、偉そうなゴリラが二匹。

 一方は、白衣の白眉はくびゴリラ。

 白衣、あれは既得権益の象徴にして、詐欺の免罪符だ。

 もう一方は、武装した物騒なゴリラ。

 たいそう長ーい銃を、抱えている。


 という具合に脳が目の前の現象を処理しきるうちに、俺は、駆け出していた。

 変わり果てたリアム兄さんの方向へ、もとい、しばらく水浴びしていなそうな刺激的な芳香に、向かって。

 もちろん、ゴリゴリの四足歩行で。




 🦍🦍🦍




 ——カエゴリラは、ゴリ霧中(?)だ。



 俺は駆ける。

 途中、バナナの皮を踏んだ気がするが、滑りはしなかった。

 今は、滑ってなんかいられない。


「リアム兄さん!」

 俺は夢中になって呼びかける。


 はじめにリアム兄さんが、一瞬遅れて両脇の見知らぬゴリラ二匹が、俺に首を向ける。


「カエゴリラ、なのか……」

 リアム兄さんの、貧弱な返事。


 俺は両腕で、ゴリンっ、とブレーキをかけて、立ち止まる。


「リアム兄さん! 寝返ったんじゃ、なかったんだね!」

「当たり……前だ。俺は……生まれてこの方、ずーっと、森守りゴリラだ……」


 寝返っていなかった、それはよかった。

 が、リアム兄さんは、衰弱しきっているらしい。

 それは大問題だ。

 改めて間近で観察すると、リアム兄さんの、かつての黒く立派な体毛は、ケツ毛を含めて、チリチリのワシャワシャになってしまっている。

 剛毛の隙間からは、赤褐色の斑点まだら

 臭いもひどい。

 想像したくないが……拷問でも、受けていたのだろうか。


 俺はさらに一歩、リアム兄さんに近づく。

 すると白衣の白眉はくびゴリラが、迷惑そうな顔をして……


「グーレゴリゴリ! なんだぁ、お前?」

 白衣白眉ゴリラは、莫迦ばかみたいな口調で、俺を威圧した。


「お前が連れている、手枷足枷ラジカセを繋がれたゴリラの、家族、弟だ!」

 俺は勇気を振り絞ってそう叫んだが、本当には、恐れていた。

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