第4話 ギャルはオタクに興味津々(意味深)


 俺が席へ戻るとちょうど他映画の予告が終わり、映画の本編に入るところだった。


 俺のゴリ押しに対して、嫌そうな顔をしながら席に戻った金城だったが、案外すんなり映画を観る気になってくれたのは意外だったな。


 少しはこの映画に興味を持ってもらえたのだろうか?


 まあなんでもいい。


 これで俺は心置きなく映画を楽しめるし、金城も飽きたら帰るだろう。

 何も観ないで帰るよりはマシだと思う。


 とりあえず俺は金城のことを忘れて映画を観ることに集中した。


 ☆☆


 ——サムサメの舞台は江戸時代。


 商人たちが呑気に船遊びをしていると、突如として謎の妖気を纏ったサメの大群が現れ容赦なく喰われるシーンから始まる。

 サメ映画ではお馴染みすぎる展開なのだが、そこからは主にこの映画のもう一人の主人公であるサムライの話となり、彼と妖気を纏うサメとの戦いが描かれた。


 そして注目の最後のシーンで主人公は、ラスボスの巨大サメに喰われるのだが、過去に主人公の父親も喰っていたこのサメの中には、妖気を絶ち斬る名刀『ムラ"サメ"』が刺さっており、父親が持っていた刀だと察した主人公は、それを手にサメを真っ二つにして逆転する展開には感動———するわけねえだろっ!!


 いや、サメにボリボリ喰われてたのに、なんで主人公は無傷なんだ! サメの歯何本あると思ってんだよ!!

 B級映画のご都合主義展開すぎる。


 てか、親父の刀も何年間サメの腹の中に刺さってたんだよ!! それでサメも無傷なのおかしいだろ、ずっと微妙な腹痛くらいで済んでたのか!?


 そんなこんなでツッコミどころ満載のまま映画は終わった。

 それと同時に俺の学校生活も終わっただろう。

 クソ映画をオススメしてきた陰キャ男子のレッテルを貼られて。


(そういや、金城はどうしてるかな……)


 あまりにも映画に気を取られて金城の様子を気にする暇もなかったのだが、意外にも金城はまだ席に座っていた。


 もしかして俺にクレーム言うために残ってたとか?


 すると案の定、場内に明るさが戻るとすぐに、金城が荷物を手に取ってこちらに向かってくる。

 またしてもあの金城と向かい合う俺。


「…………」


 金城はまたその鋭い眼差しで俺を睨みつけながら、何か言いたげな顔をする。


「あんたに言われて観てみたけど……自分でも驚くくらい飽きずに観れて、最後のシーンも感動した」


 ……は?


 か、感動……?


「だからこれ、呼び止めてくれたお礼」


 金城はそう言ってカバンから何やら一枚のチケットを取り出すと、俺に押し付けてきた。


「今日は、その……ぁんがと」


 金城はゴニョゴニョと何かを言って踵を返すと、そのまま行ってしまった。


 お礼……? 俺に?


 俺は席から金城の背中をボーッと見つめながら、さっきもらったチケットに目を落とす。


『館内のポップコーン10%値引きクーポン』という絶妙にいらないクーポン券だった。


「マジで……意味が分からないな金城愛希は」


 俺はその後、よく分からない感情のまま、なんとなく記念にサメサムのストラップを買って帰るのだった。


 ☆☆


 そして翌日の高校。


 俺は昨日のことでずっとモヤモヤしながらも、ちゃんと登校はする。

 金城はあの映画に満足したみたいだし、サメサムを勧めた俺の平穏も守られた……と思っていいのだろうか?


 まあそもそも金城は前の席にいるとはいえ、もう話すことはないだろうし、俺と接触することも二度とないので大丈夫だろう。


 そう、俺はこれからも一人のんびりソロ活をすればいいんだ。


 俺はいつも通り、自分の席に座って黙々とラノベを読み始める。

 教室の雑踏を尻目に、黙々とドスケベ異世界ラノベを読む。


 これこそがむっつりオタクの特権——。


「——ね、それも飽きない作品?」

「へ?」


 急に目の前から話しかけられて俺がラノベから顔を上げると……そこには登校してきた金城愛希が立っており、彼女の水色のネイルが俺のラノベを指差して……って、金城!!??


(なんで話しかけてくるんだよ!!)


「それならわたしでも、飽きない?」

「あ、飽きるも何も、これは」


 ど、ドスケベ異世界ラノベなんて無法地帯ドスケベを、こんな陽キャのギャルに見せられるわけねえだろ!!


 俺の平穏……どうなっちまうんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る