第53話 夜の終わりと仲間との帰宅
「ロゼ……」
――私を守って。
その一心で身を投げ出した彼女の姿に、胸が張り裂けそうになる。
心は悲しみに打ちひしがれ、視界が滲んだ。
ロゼを射た野盗はすぐに自警団に取り押さえられる。
「……だから、大丈夫」
幻聴か。
どこからともなく、ロゼの声が聞こえた。
「リリアナ?」
その声に顔を上げる。
そこに――ロゼが、立っていた。
「えっ……!? あ、ああ……」
頭が混乱する。だがすぐに気づいた。
そうだ、ここにいるロゼは「分身」だ。
分身ならば倒されても消えるだけ。本体さえ無事なら、命を落とすことはないのだ。
「ば、化け物!」
取り押さえられていた野盗が叫んだ。
「そうだ、俺は見た! 村人に声をかけ、狼どもを操り、その化け物を従えて……! お前が……!」
「おとなしくしてろ!」
自警団の人が怒声を上げ、野盗を押さえつける力を強める。
それでも野盗は憎悪を込めて叫んだ。
「この、魔女め!」
その瞬間――。
見えない力が働き、野盗の頭が地面に叩きつけられた。
呻き声をあげる暇もなく、男は身動きを奪われる。
「リリアナ、馬鹿にする……許さない」
ロゼの声は冷たく響いた。
野盗の体はなおも見えぬ力に押さえつけられ、地面に沈み込む。
「ロゼ、やめて!」
私が慌てて叫ぶと、彼女は小さく頷いた。
「……わかった」
力が解け、野盗はぐったりと横たわる。
気絶しているが、息はあるようだった。
生き残った野盗達は拘束され、自警団の詰め所まで運ばれていった。
上空で哨戒をしていたミミィからの報告で、あたりにはもう敵影は見当たらないとのことだった。
気がつけば、東の空がゆっくりと白んでいく。
――もう、そんな時間か。
村人たちもそれぞれ家へ帰り始める。
私たちも、屋敷に戻ろう。
戻ったらマリーにも報告しなきゃ。
そういえば、昨晩は水浴びできなかったな……。
マリーがいる間は森の泉には行けない。仕方がないから、家のお風呂を使うしかない。
でも、今は何よりも屋敷に帰って、泥のように眠りたい。
「ロゼ、ミミィ、もふぞー。帰るよ」
「うん」
「はい!」
「キュキュゥ!」
こうして、長い襲撃の夜は終わったのだった。
* * *
「リリアナ、大丈夫?」
帰り道、ロゼが心配そうに尋ねてくる。
「うん、少し疲れたけど……大丈夫だよ」
私はそう答え、無理にでも笑顔を作った。
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