第2話 タイムリミットまで後一年(1)
カチャンと音を立てて、孤児院の扉に手をかけて、ハッと我に返った。
見送る子供たちを振り向いて、なにげなく聞いてみる。
「今ってボク何歳だっけ?」
「ディラン兄ちゃんは13歳だよ? だから、孤児院を旅立つんじゃない」
「そうか。ボクは13歳か。じゃあ」
セリアが皇帝に求婚されるまで一年弱。
なんとか彼女を神殿から逃さないと。
一年後には彼女は殺されてしまう。
力もつけないと。
ギルドに行くべきだろうか。
力をつけてどんな場面でも、彼女を助けられるように。
最初はソロでやることになるか。
どうせFランクから始まるんだろうし。
まずは神殿や宮殿に入り込むためのスキルや人間関係の構築がほしい。
ひとつの職業にこだわるのではなく、ありとあらゆるスキルをできるだけたくさん短時間に手に入れる。
器用貧乏にならないように、なにかひとつに特化するなら、
「今から肉体を強化しても無駄だから、無限に溢れてるこの魔力を使って全属性の魔法使いあたりが妥当か」
身に流れる魔力の強さが全属性使えることを教えてくれる。
どこかで訓練するべきか?
「使えても使いこなせるかどうかは別の問題だからな」
「ディラン兄ちゃんどうかしたの?」
「いや。どうもしないよ、みんな」
「どうして出て行くの? まだ2年はいられるのに」
「やりたいことがあるんだよ。それには時間がいくらあっても足りない。2年を無駄にできないんだ」
「それってセリア姉ちゃんのこと?」
「でもセリア姉ちゃんの事は諦めるしかないって。院長先生が」
「誰がなんと言おうと、ボクは諦めない!」
粗末な衣服と護身用とも言えない使い古されたナイフ。
後は孤児院を出立する子供に与えられる銅貨3枚。
今のところは北の森へ向かうか。
北の森は出ない魔物が、いないと言われるくらいには危険な森だ。
自分を短期間に鍛えるには最適の場所。
考えろ。
時間は一年しかない。
何故時間が巻き戻っていたのか、考えてもわからない。
わかっているのは、セリアが殺されたあのとき、時をやり直したいと強く願ったことだ。
愛すべき守るべき柱の聖女を殺されたために、彼女の生きる未来を強く願ったボクに、神々の奇跡が起きたなら、今はそれに縋るしかない。
それを信じるしかないとも言うが。
「光よ、この子らに
幸運を僅かに上昇させる初級光魔法。
あれ。
ちょっと待てよ。
ボク今あっさりと光魔法を使わなかった?
全属性使えるのはわかってた。
でも、それは特殊な属性である光と闇を除いた6属性だけのつもりで、聖属性である光、魔王に連なる闇は対象外のつもりだった。
これはどういうことだ?
ボクは8属性すべてを使えるのか?
だとしたらどのくらい強くなったのか調べないと。
うまくいけば、神殿に入り込めるかもしれない。
強い光属性が使えれば、勇者にだってなれるかもしれない。
とりあえず今は北の森に行こうと心に決めた。
「初心者が行く森じゃないけどね」
苦笑いしてから、ボクは片手を振った。
「バイバイ。ディラン兄ちゃん!」
「元気でねー!」
手を振ってくれる子供たちに、力強く手を振り返した。
ーーー北の森ーーー
「燃やせ! 炎よ!
森に入ってすぐに
だった。
最初は
しかしすぐにそれではダメだと思って、次に
それも効果が弱かった。
仕方がない。
どれも初級の炎魔法なのだから。
しかし場数を踏むほど、魔法のレベルはどんどん上がっていった。
今では最上級魔法のひとつ。
魔力の強さと持続に関連するマナも、かなり成長することができた。
しかし上がるのは、炎魔法のレベルばかり。
しかもレベルが上がるほど、詠唱時間も短くなっている。
このままでは偏った成長になる。
そう危惧したとき、ボクは空からグリフォンが、こちらを一直線に目指していることに気づいた。
「風の王グリフォン、か」
風と炎を同時に使う強敵だ。
こちらが打てる手としては、土と水が。
「まだレベルが上がり切っていない土や水の魔法を、同時に扱えるか? でも、やるしかない!」
それしか生き残る道はない。
レベルを上げたくて、この危険な森に入ってきたのだから。
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