第4話「師匠は突然に」

深夜0時。

 今日もミッドナイトマートの扉が、霧の中からゆっくりと開く。


 「……っ! し、ししょーっ⁉」


 入ってきたのは、深紅のローブをまとい、杖を手にした高位魔術師。

 銀の髪を後ろで結い、鋭い眼差しで店内を見渡すその姿は、まぎれもなく——


 「い、いらっしゃいませ……っ!」


 思わず声が裏返ったが、ニナはなんとか接客用語で出迎えた。


 「……ここは“異界の売店”か? なんとも妙な空気を感じるが……」


 師は鋭くレンのほうへ視線を移す。


 「貴殿がこの空間の主か? なぜニナが、こんな場所で働いている?」


 レンはレジから出てきて、肩をすくめる。


 「簡単なことですよ。第2話……じゃなくて、2日前、ここにふらりと迷い込んできて、腹をすかせてて。だから飯をやった。で、代わりに今日からバイトってわけです」


 「……」


 師は一瞬だけ無言になり、ニナのほうを見た。


 「……事情は分かった。だが、働くからには中途半端は許さん。魔法も接客も、基本は同じだ。丁寧さと、相手への敬意を忘れるな」


 「は、はいっ……!」


 びしっと立ち直ったニナの姿に、師はほんのわずかに口元を緩めた。


 「ふむ……では、私も“買い物”とやらをしていこう」


 しばらくしてレジに並んだ師の買い物は、ハーブティーとスモークチーズ、それからなぜかカラフルなスナック菓子。


 「これが“ポテトチップ”か……不健康な魔法の匂いがするな」


 「添加物ですね」とレンが補足すると、「ふむ、なるほど」とうなずいた。


 会計を終えると、師は静かに言った。


 「ところで……“ナイポ”とは?」


 「ミッドナイトポイントカードです。スタンプをためると、いろんな特典がありますよ」とニナ。


 「ふむ、では……私にもひとつ。長く通うことになりそうだ」


 そう言って、ナイポにサインをする師。


 帰り際、杖を軽く振ってから、ひとことだけ残して去っていった。


 「……ニナ。誇りを持て。ここは“学びの場”だ」


 自動ドアが閉まり、霧の向こうに姿が消える。


 「……ふふっ、やっぱりすごい人だな、あの師匠」


 「うん。でも、ちょっとだけ……嬉しかった」


 ニナは手にした“レジ袋”をぎゅっと握りながら、小さく笑った。


 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る