4.ヤンデレストーカー対策会議
「や、ヤンデレ……!?」
ぼくがあまり外で聞き慣れない言葉に驚いて質問を返してしまった。東堂さんは問題なく話を進めていく。
「ええ、ヤンデレ。ヤンデレストーカーね。その退治の依頼を頼まれたって訳」
「それが完全犯罪と何の関係があるっていうの?」
古月さんの質問にも元々答えが用意してあったかのように返事があった。
「そりゃもう! 夜間の闇討ちっていったら、今の世の中犯罪でしかないでしょ! まぁ、直接攻撃するでも、恐怖を味合わせて二度と動けないようにするでも、それは一緒に話し合って決めましょ?」
そこですぐ僕は疑問を放つ。
「で、ストーカーだよね……そんなのにぼく達で対抗できるのかなぁ……?」
心配している間にも古月さんは依頼者に感情移入しているのか、すぐに言葉を放っていた。
「できる、よ。それしか答えはないじゃない。ってか、さっさとそいつをふん縛って二度とストーカーができないようにしてやりましょ! 絵里利! どんな被害が出てるの?」
「夜、追い回されたり、下着が盗まれたり。帰ってきたら、家が散らかっていたなんて話もあったわね」
「よし! 早速古月家の最新技術で証拠を捏造して冤罪でも被せて刑務所にボンッよ!」
最新技術で捏造って、どんな無駄な技術を作っているのか。というか、古月家とは一体。そんな疑問が出るものの、ぼくは「やめとこ。冤罪は後からややこしくなりそうだから」と止めておく。
とにかく、許しがたい犯罪ではある。人を困らせて、恐怖を味合わせて。
古月さんは鼻息を荒げ、更なる情報を求めていた。
「で、その被害者ってのはさっきの人でいいのよね」
「ええ。浜野舞子。三年生の先輩よ」
「他にはストーカーのことについて知ってる人? 知らない人? それでどんどん話は変わってくると思うけど」
「知ってる人よ。
となると、だ。今度はぼくも発言してみせる。
「三年生……ってことは、卒業したのは一年前の春だよね。ストーカー被害にずっと耐えてたの?」
東堂さんは首を傾げて口にする。
「それが……被害は一か月前かららしいのよね」
「何で最近になって……! 好きならもっと前からしてるんじゃ」
「さぁ、その心理は……ね」
ちなみにと古月さんは別の話題を出してきた。
「ちなみにこの話、タダで受ける訳じゃないでしょうね? 相手は男よ。アタシ達に危険なことをさせて、無料でっていうのは変じゃない?」
「さっすが、生粋の商人。そうやって、儲けてきたことはあるね」
「黙りなさい。別にアタシの親がそうであるだけで、アタシは関係ないわよ」
親にこびないポーズは格好いい気もするが。先程財力で何とかかんとか言ってなかっただろうか。気のせいということにしておこう。
「はーい! で、その点は部活の宣伝ね。おおっぴらにできない部活だから、こそっと広めてもらえるようにお願いしてもらってるわ」
「それでいいの?」
「いいのよ。宣伝っていうのも結構役立つものだし。知ってるでしょ? 無料のスマホアプリに出てくる宣伝。あれをゲーム内で見せるだけでも、無料ゲームを作った人にはお金が入ってくるんだし」
「そ、そうなの?」
「あれ? ユニちゃん知らなかったの?」
「し、知ってるわよ! バカにしないで!」
二人が騒いでいるところでぼくは冷静に考えていく。ヤンデレ、か、と。
その人に病む程、好きになる現象。アニメだとよく他人を傷付けてでも、自分の恋を優先する的な行動を見掛ける。普通は女性が多いが。
「ヤンデレは知ってるわよね」
「アニメキャラとかは無縁よ」
「いや、だってユニちゃん。ツンデレじゃん」
「表出なさい」
しばらく二人が睨み合っているかと思えば取っ組み合いに。
両手に華の状況、と思っていたら両脇に火花。いや、爆弾だ。踏み抜くと、ぼくまで巻き込まれる。
なので静観することにしたのだが。
その騒ぎは外にまで。気付けば、彼女達は廊下の方まで出ている始末。完全犯罪には全く関係ないことで罵り合っている。
「何で何でアンタはいっつも危険なことばっかり」
「そういう、貴方はお金で全て解決だよね。もっともっと自分の力を使ってみたら?」
「お金も実力のうちよ!」
「それは貴方の実力じゃなくて?」
「こっちはどう使うかっていうのも、アタシの力なのよ」
もうそれでやめておいて。話をしませんか。そう提案したいものの、気の弱くて甘ったれなぼくは声が出ない。
だから、ぼくは思う。
ご苦労様です。扉を開いて貴方達を睨んでいる、生徒指導の先生に怒られてください、と。
「お前ら! 騒がしいぞっ! ドタドタ何やってんだ!?」
「あっ。これはですねえ。これはですねえ」
「げっ……野木沢! えっと、執事……こういう時、なんで近くにいないのよ!」
「二人とも、職員室に来い!」
おいおい……と声をかける前に二人は彼に連れていかれた。
本当にこの二人が完全犯罪計画部の活動を順調に進めていけるとは思えない。
「だめだ。こりゃあ……ぶつぶつぶつぶつ……」
ぼくは誰かが飲み干したお茶のペットボトルと適当に書き留めたメモを見て、呟く羽目となる。
ただ、心配なのは罪悪感だ。
「……夜襲なんていいのかな?」
そうボヤくぼくに対して前から言葉が。
「別に今回の仕事は夜襲。意味としては夜に驚かせれば……夜に相手を危害を与えられれば、いいと思うのよ。別に鈍器で殴る必要はないわ。依頼と目的を達成させて、完全犯罪を成立させればいいんだから」
「驚かせる、か……」
「まぁ、それも犯罪にはなっちゃうけど……依頼人のためだもの。驚かせる、いたずら位は許してもらいましょ?」
危害を与える。その言葉を広くとれば、驚かせることも襲うことと同じなのだ。つまり、イタズラだって襲撃の一つに入る。もう少し気を抜いても良かったみたいだ。
余計な心配をしたことに嘆息を漏らし、さらにもう一息ついた。まあ、これなら仕事を達成できるかもしれない。まだ心にこびりついている軽い罪悪感さえ捨てれば……。
そもそも警察に通報するのはありなのか。
考えてダメと考える。きっと証拠が掴めない。もし、あったとしても復讐が怖くて何もできないのが本音だと思う。
釈放されたら、相手はまたやってくる。まぁ、拘留までいけば、まだマシだ。その間に逃げられるから。でも、口頭注意で終わってしまったら。
逆上はあり得るのだ。
怒られてしょんぼりとした感じで戻ってくる古月さん。
「ちょっと騒いだだけなのに。怒りすぎよ、アイツ」
「それは古月さんが悪いから……」
「……何よ、アンタまで……」
「そ、それはいいから……ううん、浜野さんが高校を辞めてまで逃げることはできないだろうし……そうだ。東堂さん。相談できる人はいないの? そもそも浜野さんに父親や彼氏がいるなら、そちらに何とかしてもらうとか!」
古月さんはこちらに呆れている。
「それじゃあ、完全犯罪計画部の立ち位置が無くなるんじゃない?」
その話に対抗したのは東堂さんだ。
「いえ? 家族や関係者同士なら訴えるのは難しいから……。傷害も示談で終わっちゃうことも多いし……。ある意味、完全犯罪と言えるのかもね。もちろん、それでボコボコにし過ぎて逮捕されることもあるけどね……」
完全に僕の発言に味方したのか。と思いきや、彼女は首を横にも振っていた。
「でもね。今回は無理そう」
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