第5話 鬼頭家は賑やか

「ごちそうさまでした」


 食事を終えた桜は空いた食器を持って流しに向かう。

 鬼頭家のキッチンはリフォームにより最近流行りのアイランドキッチンになっているので、家族の顔を見ながら洗い物をすることができるのだ。

 ちなみにガスコンロは壁側に設置されていて、そのうえではスペースを贅沢に使うレンジフードがガンガン回っている。


 窓を開ければ涼しい田舎の家ではあるが、昨今の夏は暑すぎる。

 流石に熱風が吹き抜けていくだけなので窓は閉められていて、エアコンが涼しい風を吹き出していた。


 祖父が桜に向かって声をかけた。


「桜~。一服したら、裏山へ行くか?」

「うん、行くっ。今日買ってきた木刀使いたい」

「そうかそうか。なら行くか」


 少し遅れて食事を始めた母が釘をさす。


「キチンと食休みしてから行ってね? せっかく作った野菜の吸収が悪くなるから」

「分かってるよー」


 桜は笑いながら席へと戻った。

 母がハッと何かを思い出して言う。


「あっ、そうだ。桃が冷えてるんだった。桃食べるなら誰か剥いて」

「それなら僕が剥くよ。冷蔵庫のどこにあるの?」


 父が笑いながら椅子から立ち上がった。


「冷蔵庫の二段目。真ん中の真ん中にドーンとあるはず」

「ん、あった。三個くらい剥けば足りるかなぁ~」


 冷蔵庫から桃を取り出した父は、器用に剥き始めた。

 流しは家族から見えるところにあるから、会話しながらサクサクと作業ができるのだ。


「最初に剥いたのは、わたしが食べるっ」


 桜が右手を上げると、その横で弟がそうめんをすすりながら叫ぶ。


「あっ、ねーちゃん、ずっこい」


 母は落ち着きのない息子をたしなめる。


がくは先にご飯をちゃんと食べちゃいなさい。しっかり食べないとすぐにお腹すいちゃうわよ? まだナスもあるし、オクラも残っているから食べなさい」

「おっ。食べちゃっていいの?」


 がくは目を輝かせた。

 育ち盛りの胃袋は底なしだ。


「いいわよ。母さんは、残りのそうめんをやっつけたら終了~」


 桜は母の食器を眺めて突っ込んだ。


「ん? でもお母さんこそ、食べる量が少なくない? 畑仕事は重労働なのに」

「ハハッ。さっき天ぷら揚げながらつまみ食いしてたから大丈夫」

「そうなんだ」


 桜は視線を、豪快に笑う母から父の手元へと移した。

 手慣れた様子で桃を剥く父は、あっという間にカット済みのものを皿の上に並べた。


「父さんは次のを剥かなきゃいけないから、お皿取りにきてー」

「はーい」


 桜は元気よく返事をして立ち上がり、流しの横に置かれた桃の載った白い皿を取りに行った。

 ゆうは孫娘を愛しげに眺めながら、自分の娘に話しかける。


「桜も大きくなったもんだ。子どもの成長なんてあっという間だな?」

「そうね、父さん」


 かおるも嬉しそうに桜の背中を眺めながらこたえた。


「我が家の事情は承知しているけど……あの子には自分が満足できるように生きて欲しいわ」

「そうだな。いまどき鬼を鎮める必要もなかろう。桜には自分の好きに生きる道を選ばせたらいい」


 祖父はかおるにだけ聞こえるくらいの声で小さく呟いた。

 かおるも頷いて小声で言う。


「そうよね。いまどき、鬼を封じるなんて時代錯誤もはなはだしい」


 桃の載った皿を持って意気揚々と帰ってきた桜に祖父が聞く。


「桜は高校卒業したらどうするんだ?」

「あら。桜は進学するんでしょ?」


 かおるは確認するように娘に聞いた。

 桜はコクリと頷きながら自分の席へと座る。


「うん。地元の大学なら推薦とれるし、自宅から通える」

「そうだな、高校よりも近いくらいか」

「うん」


 祖父の質問に、桜は頷いてこたえた。


「じゃあ、大学を卒業したら?」


 そうめんと天ぷらを夢中になって食べていたがくが、パッと顔を上げて質問した。

 桜はうーんと唸る。


「家を出るのも面倒だし。就職先も思い浮かばないから、お母さんの【家庭菜園】でも手伝おうかなぁ……」

「ふふ。桜ったら。頼もしいんだから」

 

 母は嬉しそうに笑った。


「ああ。それはそれでいいな」


 父もコクコクと頷いた。


「まぁ、桜がそうしたいなら、そうすればいい。お前は好きに生きなさい」


 祖父は顔をクシャクシャにしながら、桜へ包み込むような笑みを向けた。

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