元悪役令息、冒険の記憶を売って異世界で稼ぎまくる!?

チャイ

第1話 絶叫の昼下がり

「腹減った、おかみさーん、肉まんひとつ!あ、3つね!」

「はぁ?ゼット坊、肉まん?そりゃなんだい?」

昼時のがやがやした食堂、結局僕はコケットン定食を相棒の分まで頼んで席についた。

この鳥の肉って固いけど味はまあまあ、なにより安いのがいい。


あーあ、この異世界で、いまだに肉まん頼んじゃうなんてさ。

前世、日本の食べ物が恋しすぎるよ。


ある日、道路に立ちすくんだ毛モジャの犬。子供の頃大事にしてたぬいぐるみにそっくりの。

ひょっとして迷い犬かと思って助けようとした瞬間、『トラック!』鋭い音がした。


家庭教師のAさんが名前を呼ぶ声もしたな。

そして、気づけば僕は病院ではなく、異世界にいた。


隣に座るAさんそっくりな相棒をちらり盗み見る。

アークは僕に気が付いて、優しく微笑んだ。

「安くておいしいなんて、さすが、おかみさんですね」

Aさんに似ているのに、アークは優しい。


そうなんだ、僕は前世では、横柄で嫌味な浪費家のお坊ちゃん。

Aさんからはズバリこう言われた。

「あなたは悪役令息です」って。


でも、僕をちやほやしなかった人間なんて、彼くらいなものだったな。


日本で高校生やってた僕。

絶対味覚の神童として、親の食品&レストランチェーン経営を助けてた。


孝行息子がなぜ、悪役令息なんて、呼ばれたのかって?


そりゃその神の舌で、『不味い』と烙印を押せば、開発中の新商品は即時中止、担当者は左遷か、クビ。容赦なくバッサリ。


学食、クラスメイトの弁当までチェック入れたりしてさ、馬鹿だったよね、僕。

おかげで、さみしい僕は、金に飽かしてゲームと食べることしか楽しみがなかった。


それが今やこの節約生活。

洗濯だって自分でやれば1回で30モンガ節約、相棒の豪華なローブも洗って計60モンガ節約。


あいつのローブって、ひらひらしてて洗濯大変なんだ。

石鹸も多く使うしさ。


でも、節約に励んだりお金を稼ぐのは、意外と楽しいな。


守銭奴?周りからもそう言われてる。


おーい、ゼット!手をふりながら、知り合いが来た。

「いい防具買わね?俺買い換えたから」

「へ~俺が使ってるのよりいいよ、いくら?」

「5万モンガ!友達価格だぜよ」

「高すぎ!」

「わかったー、ん、じゃな、またー」

交渉もなく、超あっさり終了だ。

僕がケチなことが、知れ渡っているからか。


僕だって、いい防具が欲しいって気はあるんだけど。

守銭奴、ゼットの思考だと防具に金なんてかけらんねぇよ。

ってなるんだよ。


傷なんか、アークがいれば、すぐ治る!

なんてたって、治療系のスキル全持ち。

おまけに竜族だしなって具合。


それにしても、僕はなぜ、こんなにお金を貯めている?

危ない冒険で稼ぎまくるのなんのため?


ゼット自身も、もう忘れてしまったようだった。


過去の冒険の記憶を、買取屋に売りまくってきたツケなのだろうか。

果ては夜見る夢の記憶まで売っていたなんて。


いつか、その理由を、僕が思い出せる日がくるのだろうか?

この体にはゼットの記憶が残っているのに、彼の意識はもうここにはない。


もしや、彼の意識は僕がいた現代日本に転生してる?

いや、あのトラック事故で、僕が生きているかすら心配だが。

もしそうなら、守銭奴のゼットが、あのセレブ学園でやっていけるのか、そっちの方が心配だよ。



ちなみに僕の冒険者レベルは12。

え?って思うでしょ。

冒険の記憶を売ると、クエストで得た経験値も失われるからなんだ。

そう、報酬は稼げるけど、副作用でレベルは上がらない、スキルも得られない。


あ、ご飯冷めちゃう。あったかいうちに食べないとね!

コケットンの肉は冷めると固いしさ。


「おいっ!ゼット、見てみろよ、これ!」

昼時の客が去った頃合い、テーブルにドサッと瓦版を広げた、大男の冒険者、通称ガメ兄が叫んだ。

僕はおっちゃんにダルそうに手を振った。ゼットならこんなかんじなんだよ。


「面倒だから、おっちゃん読んでくれよ」

ちなみに僕もこの世界の文字、読めなくもない。


ちっ、仕方ねぇなぁとこぼしつつ、おっちゃんは読み上げる。

「速報!幻のミルナットの財宝、ついに孤島より発見!

時価総額、実に四万マモン!

伯爵曰く、砂漠の遺跡から出た宝の地図を頼りに――」


「これ、あれだろ!ちょっと前にお前らが行ってきたクエストじゃねーか!

人食い砂漠で偶然見つかった地図だろ?」


「その通り。ゼットが目にして、宝の場所をしかと焼き付けた。

そして地図は、風に舞い、砂のように消え去ったのです」

アークがまるで伝説の吟遊詩人のように言葉を紡ぐ。もちろん見た目も麗しいよ。


おっと今はそれどころじゃない、なんだって!?


「うわーーーっ、あの地図、本物だったのかよぉおぉ!」

僕は大絶叫、頭を抱えた。


「かわいそうな、ゼット。だから私があの記憶だけは売るのをやめておいた方がいいと言ったではありませんか」


「ミルナットの財宝の地図なんて、偽物が山ほどあるんだ。

あれが本物だったなんて、思いもしねぇっての!」

噂で耳にするたびどうせ偽物だって思ってたよ。

現代日本も詐欺が多いけど、この世界だってね。


「あはは!私なら、記憶を売る前に場所をメモするな」

看板娘のアンナがしたり顔で言いながら、生姜風味の薄甘茶を置いた。


「それがね、お嬢さん。そう単純な話でもないのですよ」


アンナ嬢は頬を膨らませたが、アークは見なかったことにして続ける。

「冒険の記憶は、事前に用意したガラスのような石にその場ですぐに吸い込まれてしまうのです」


「ねぇねぇ、聞かせてよ、その冒険の話!」

「どうやって地図を見つけたんだよ?」

いつの間にか、テーブルの周りには冒険者たちが集まっていた。


「しかたねぇなぁ、アーク。話してやってくれよ。

なじみの仲間だ、特別だ。

ま、安くはないぜ、今夜の晩飯おごってくれよな!」


僕はちゃっかりとねだっておく、これくらいは、うん、当然だろう。

アークは苦笑しつつ頷いた。

周りの仲間たちも、お前らしいとみな笑った。


***


表紙が見たい方は、近況ノートをみてください。

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