彼女と私の幸せなバッドエンド~今世でも他の令嬢を溺愛する幼馴染み……お飾り妻な婚約は取り消しですか? 手紙と仕事、そしてなぜか公爵の命令で、豊穣の令嬢は幸せになります!~【8/28完結】

イチモンジ・ルル(「書き出し大切」企画)

プロローグ

01-一度目の人生

 ――17歳の冬。私は自分の未来の力と罪を記した文字に襲われた。


 私はロパスティ男爵令嬢、キャリー=ビアンカ。愛称はキャビ。

 二度目の人生を歩んでいる。


 ……それなのに。

 私を襲うその文字は、その日、エミシェスング王国の図書館で借りた本には書かれていない。

 ページが閉じたままなのに、目の前の空間が裂けるように、黒い雪粒がひろがった。

 黒い雪はみるみる文字へ変わり、私に迫ってくる。


 ***

 

 これは「たとえ」でも「まぼろし」でもない。魔力が作用した現象だ。

 この国では魔力はあたりまえ。私は魔力の扱いが苦手だが……それは、またあとで。


 ***


 流れ込んだのは、魔力で記された啓示だった。

 それを記したのは、私が「読ませた者」と呼ぶ正体不明の存在だ。


 内容の大半は、一度目の人生でこの日から数日後に起きる出来事だという。

 つまり、前の人生で、私は未来に力を得た。罪も犯した。


 読ませた者は、一度目の人生における未来の記憶をむりやり送り込む。


 私は抗うことも、逃げることもできなかった。


 ***


 読ませられる直前、衝撃的な出来事があった。


 婚約予定の幼なじみジェレミーが、別の女性に熱い視線を注ぐのを見た。


 胸の奥がひりつき、図書館の静けささえ遠のいていった。

 そのとき、文字が襲った。


 姿は見えない。お節介で、ままならない存在。

 一度目の人生で私が犯した罪をむりやり突きつける。


 それでも、何かを伝えようとしている。

 だから私は、そいつを「読ませた者」と呼んでいる。


 ***


 一度目の人生の私は、まれな魔法の力を得て、そして約束を破った。


 ――キャビは、恋を叶えたい!


 胸の高鳴りは、未熟で愚かな心の証しにすぎなかった。

 その魔法で……数人の男性に被害を及ぼし、恋敵の女性を排除した。


 そのとき、全身が奮い立った。

 令嬢がジェレミーを奪ってしまうのが怖かった。

 胸の鼓動があばれ、止めなきゃという気持ちは執着に沈んだ。

 だから、腕が勝手に動いた。

 気づいたときには、彼女は窓の外へ……頭を下にして落ちていった。


 けれど、終わりはジェレミーの瞳とともに訪れる。

 怒りに燃えた薄青の目が、言葉よりも鋭く胸を貫いた。

 幼いころからの絆は……失われている。

 あの瞳の奥の優しさは、怒りで燃え尽きたのだ。


 ***


 二度目の人生のその日、文字は踊り続けた。さらさらと紙をなぞるような音が、脳に広がる。

 逃げ場は、もうない。


 目を閉じても消えない。むしろ、濃くなる。


 最初は、めまいかと思った。でも……違う。

 心臓が、手入れ不足の機械みたいに、読むたびぎこちなく音を立てる。

 二度目の人生ではまだ犯していない罪に怯える気持ちが、私の内側を削ってくる。


 逃げれば、楽だったよね。きっと。

 でも、私は読むことを選んだ。


 選ばされていても、選ぶと決めたのは私だ。

 今度こそ、役割ではなく、自分の意思で生きるのだ。

 私は読み続ける。学ぼうとする可愛いバカでありたい。


 約束を守り、仲間に助けを求め、自分で選んだ人生を生きる。


 私の名前は、ロパスティ男爵令嬢キャリー=ビアンカ。愛称はキャビ。


 一度目の人生で、未来にしでかしたバカな選択と……その結果として背負う、罪を知った。

 罪を知った私なら、正しい選択を恐れずにできる。

 二度目の人生でも得た力を慎重に活かし、私は新しい未来へ歩きはじめる――

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