セイクリッドハナムシ
■ 1. 学名・和名・分類
学名:Floromorpha sacra @ Erythraea IV
和名:セイクリッドハナムシ
分類:エリュトラエア第四惑星圏 動物界 節足動物門 昆虫綱 花相目(Floromorphata)
■ 2. 生息地
エリュトラエアIVの赤砂平原から標高500〜1,200mの「ミラシア高原」にかけて広く分布。特に高原の中央部に広がる半乾燥性の草花草原に多く、地表から30〜50cmの高さで静止している姿がよく観察される。昼間は直射日光を避け、明け方と夕暮れにかけて活動が活発化する。年間降水量の少ない地域でも、地下水脈の近くには安定した群生が見られる。
■ 3. 成体の体長
体長は約14〜18cm。背面から見ると六枚の翅が放射状に広がり、点対称の花弁状模様を形作る。翅の表面は微細な鱗粉で覆われ、角度によって赤・金・青と変化する構造色を放つ。この翅は本来、求愛ディスプレイと擬態防御のためのものであるが、静止時にはまるで宗教画に描かれる聖花紋章そのものに見える。胴体は細く、花弁状翅の中央に収まっており、遠目には完全に花そのものだ。
■ 4. 生態
【餌】
花蜜と花粉を主食とするが、小型の飛翔性昆虫も捕食する雑食性。口器は可動式の吻と鋏状の小顎を併せ持ち、吸蜜と捕食を使い分けられる。
【行動】
求愛時には複数の個体が半径2m程度の円形空間で一斉に翅を広げ、低周波の羽音を共鳴させる。この共鳴音は、宗教集団の聖歌の旋律と偶然にも近似しており、入植者たちはこれを「神意の証」としている。外敵が接近すると、全個体が瞬時に地面に伏せ、翅の色彩を乾いた花弁色に変えて擬態する。
【繁殖】
雌雄異体。交尾後、メスは地表の浅い砂地に卵を産み、周囲を花弁に似た落ち葉で覆う。孵化幼体は翅を持たず、1年かけて5回の脱皮を経て成虫になる。
【絶滅危惧度】
現状は安定しているが、入植による草原開墾が拡大すれば生息域が縮小する可能性がある。宗教集団自身が神聖視し保護しているため、乱獲や意図的破壊の危険はほぼない。
【現地民との関わり】
本種の存在が、500地球年前にこの惑星への宗教的入植を決定づけたとされる。彼らの聖典に記される「六光花」の紋章に酷似しており、集落や祭壇には本種を象った装飾が必ず見られる。巡礼の最終儀式では、巫女が生きた成虫を手に乗せ、夕陽に透かして翅の輝きを示す慣習がある。
■ 5. 発見時の状況
私が初めてセイクリッドハナムシを見たのは、ミラシア高原で現地信徒に同行していたときだった。案内人が突然立ち止まり、目の前の小花に祈りを捧げ始めたのだ。私はその花をスケッチしようと近づき、指でそっと触れた瞬間、花弁がふわりと舞い上がった。驚いて尻もちをついた私の目の前で、その「花」はゆるやかに旋回し、再び別の場所に着地して完璧な花形を作った。信徒は微笑みながら「これが我らをここへ導いた御使いです」と告げた。宗教的感慨はさておき、生物学者として私は、これほど完璧に人間の文化的記号と一致する形態進化に深く魅了されたのである。
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