マジテムシ
■ 1. 学名・和名・分類
学名:Velcrovora mimetica @ Daulon B
和名:マジテムシ
分類:ダウロンB圏 動物界 節足動物門 昆虫綱 擬綴目(Velcroidea)
■ 2. 生息地
本来はダウロンBの高地苔原「クラスタ苔地帯」の地衣類に擬態して生息していたが、人類の進出後、人工素材への擬態能力を発達させ、衣類・装備・家具・輸送物資などを通じて居住域を爆発的に拡大。現在では惑星内の居住ドーム、貨物倉庫、宇宙港内でも確認されており、一部では「構造物昆虫」と誤分類されていた。
■ 3. 成体の体長
約1.8〜2.2cm。体表はフック状・輪状の突起で覆われ、遠目には完全に面ファスナーの一部にしか見えない。背中に並ぶ突起列は、人工繊維との結合力が高く、接触した面にしっかりと「貼りつく」。さらに微細な振動を加えることで、自然にはがれ落ちる機構も備えており、目的地に到達すると自動で移動を再開する。
■ 4. 生態
【餌】
主に人間の活動空間に生じる微細な皮膚片、繊維くず、食品粒子などを摂取。感覚毛によって「高栄養ダスト」の成分を判別し、最適な吸収位置を探す。生存に必要な栄養量が極端に少ないため、1立方メートルの居住空間に10匹以上が密かに同居可能。
【行動】
「擬態→密着→輸送→脱着→定着」の5段階サイクルで生息域を拡大。とりわけ宇宙服、ブーツ、工具のグリップ部分、バッグ類の面ファスナーに偽装して移動し、外部に“同行”することが多い。集団でいる際は「カチカチ」という微細な摩擦音を発するが、これは通信でも威嚇でもなく、単なる滑り止め摩擦音らしい。
【繁殖】
雌雄異体。交尾は繊維の奥で行われ、雌は極小の卵(約0.3mm)を布状構造の奥に産み付ける。卵は繊維の熱や湿度に応じて孵化時期を調整できる「休眠同期型発生」を採用しており、環境が安定するまで数ヶ月も潜伏可能。孵化後はすぐに擬態機能を発動し、幼虫のうちから輸送擬態に参加できる。
【絶滅危惧度】
本種は絶滅どころか「予防不可能な拡散種」として対策が困難視されている。掃除機で吸引するとフィルター内部に張りつき、薬剤処理にも高い耐性を持つ。駆除目的の研究は進んでいるものの、むしろ「共生型マイクロクリーナー」としての再定義を求める声も出ている。
【現地民との関わり】
ダウロンBの植民民たちのあいだでは、本種を「持ち運ばれる神の針」と呼ぶ風習があり、特に遠距離航行の旅路においては、1匹のマジテムシを衣類の面ファスナーに仕込むと「無事帰還の守り虫」として信仰されている。子供たちは空いた面ファスナー部分を見て「虫が旅に出た」と言う。
■ 5. 発見時の状況
この虫の発見は、実のところ「報告よりも先に洗濯機から」でした。調査隊の制服ベストの面ファスナーがやけにゴワつくので確認したところ、何と数十匹の微細なフック虫が一斉に剥がれては逃げ出すという騒動に。助手は叫びながらモップで追いかけ、私は思わず「あっ、あれファスナーじゃなかったの⁉」と叫びました。その後のDNA解析により、新種昆虫と判明。私は報告書に「文明に忍び込む擬態の天才」と記した。
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