薄命と死神

夕玻露

第1話:僕の人生

 久遠透くおんとおるの人生は、平凡そのものだった。いや、彼女すらできたことのない人生だったので、平凡以下かもしれない。けれど、そんな人生とも、あと少しで別れを迎える。

 僕はそんなことを考えながら、目の前の死神を見つめていた。

——————————

 あの日のことはよく覚えている。

 あの日は、大学の試験日だった。単位がかかっていた大事な試験。僕もそれなりに勉強に励み、前日なんて一夜漬けしたものだ。その甲斐あって、試験は無事に終えることができた。

 試験が終わると、僕らは祝杯も込めて、打ち上げをすることになっていた。そして、その日の夜も僕は友人たちと打ち上げをすることになった。近くの居酒屋で集合して、夜遅くまで飲み明かす予定である。

 無事試験が終わり、安心していた頃、急に体がだるくなり始めた。ここで、自分が想像してた以上に体には負荷がかかっていたことに気づく。

 しかし、試験後の打ち上げには、どうしてもいきたかった。ここでストレスを発散しなければ、そのうちストレスが原因で死んでしまうと思う。僕はだるい体を無理やり動かして、居酒屋へと向かった。今となっても、この選択が正しかったかどうかなんてわからない。


 居酒屋に着くと、そこは試験中の大学の殺伐とした雰囲気と打って変わって、誰もが声を出し、笑い合っている騒がしくもどこか落ち着くような空間が広がっていた。

 そうした空間の中、僕らの打ち上げは始まった。友人の誰かが「試験お疲れー!」と叫ぶ。それに呼応して、皆が「お疲れー!」と返す。場内の盛り上がりは、席について間も無く、居酒屋の空間に負けない程にまで達した。体のだるさもこんな空気に圧倒され、どこかへ行ってしまった。

 目の前に唐揚げなどの料理とビールが並べられるに連れて、盛り上がりは増していった。そして、打ち上げが始まってから1時間ほど経った頃、遂に有頂天に達した。もう誰が何を喋っているのかなどわからない。すでに、僕らの頭からは試験のことなど消え去っており、こんな時間が一生続いて欲しいとさえ思っていた。しかし、僕の体は厳しい現実を容赦なく突きつけてきた。

 しばらく飲んでいると、急激に腹部に違和感を覚え、それは痛みへと変わっていった。やはり、試験勉強の体への影響は思っていた以上だったようだ。僕はタイミングを見計らって、静かにトイレへと向かった。その途中で全身から力が抜け始め、目の前が暗転した。


 それから先のことは覚えていない。気づけば、僕は病院のベッドの上にいた。それからの先のことはあっという間だった。担当医は曇った表情をしながら、僕が肝臓がんを患っていたことを告げた。しかも、転移はかなり進んでおり、もってあと6ヶ月だと言う。

 結局、僕が単位を取るために試験勉強に励んでいたことは無駄だったようだ。

 しかし、落ち込むことはできない。僕にそんな時間は残されていない。僕はすぐに大学に連絡を取り、辞める旨を伝え、やることリストを作成した。

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