第4話 街へ出て市場調査。見えてきた「機会」と「脅威」。
翌朝、俺は生まれて初めて、着慣れない
「ユウキ様、本当にお一人で…?せめて、護衛を」
リリアーナ姫が心配そうに眉を寄せる。その隣では、
「大丈夫だって。俺みたいなのが一人でいたって、誰も気にしないよ。それに、護衛なんて連れてたら、街の人の本音は聞けないだろ?」
俺がそう言うと、姫はまだ不安そうな顔をしながらも、しぶしぶ頷いてくれた。バルド宰相は、何も言わずに俺の好きにさせろ、という態度だ。試しているのだろう。
城の裏門からこっそりと抜け出し、俺は初めてアステル王国の王都に足を踏み入れた。
まず感じたのは、街全体を覆う、どんよりとした停滞の空気だった。
石畳の道はところどころが
(これが、国の中心…。
俺はまず、王都で一番大きいとされる中央市場へ向かった。
市場、という名前から想像するような活気は、そこにはなかった。店先の
俺は一人の客を装い、いくつかの店を冷やかして回った。
「お兄さん、何か探してるのかい?」
声をかけてきたのは、パン屋の主人らしき男だった。年の頃は四十代だろうか。疲労の色が濃い顔で、無理に笑顔を作っている。
「いや、ちょっと見てるだけ。それにしても、品数が少ないんだな」
「へっ、笑わせるぜ。小麦の値段が高すぎて、パンを焼くだけ赤字なんだ。それでも、こうして店を開けてなきゃ、食いっぱぐれちまうからな」
男はそう言って、ため息をついた。
「税金は待っちゃくれねえし、ギルドに払う
「チンピラ…?」
「ああ。オルコット子爵様の
財務大臣オルコット子爵。昨日会った、あの無気力な男の顔が脳裏に浮かんだ。腐敗は、俺が想像していたよりもずっと根深く、広く蔓延しているらしい。これが、この国の『脅威』の正体か。
パン屋の主人に礼を言って市場を離れた俺は、あてもなく裏路地を歩いた。
すると、ふと、甘酸っぱい香りが鼻をかすめた。香りの元をたどると、そこには、打ち捨てられた小さな果樹園があった。手入れもされず放置されているが、何本かの木には、鮮やかな赤い果実がたわわに実っている。
俺は、そのうちの一つの枝を折り、果実を一つ口に含んでみた。
「…うまい」
強い酸味と、それを追いかけてくるような濃厚な甘み。日本では食べたことのない味だ。こんなに美味しい果物が、誰にも見向きもされずに朽ちていこうとしている。
(なんで、誰もこれを売らないんだ?)
パン屋の主人の話を思い出す。小麦がないなら、別のものを使えばいい。この果物をジャムにしてパンに塗ったり、乾燥させて保存食にしたり、やり方はいくらでもあるはずだ。
これが、この国の『機会』かもしれない。
誰も気づいていない、あるいは、気づいていても生かす方法を知らない、眠っている資産。
俺は懐から、昨日もらった羊皮紙の決算書を取り出した。その余白に、今日見て、聞いて、感じたことを書き込んでいく。
【脅威】
腐敗した貴族と役人による
機能不全の騎士団(治安の悪化)
原材料(小麦)の
【機会】
未利用の資源(例:名もなき赤い果実)
新しい商品開発の可能性
城に戻る頃には、日はとっぷりと暮れていた。体は疲れているはずなのに、頭は妙に冴えている。
絶望的な状況は変わらない。だが、財務諸表を眺めているだけでは見えなかった、具体的な問題点と、そして、ほんのわずかな希望の光を見つけた気がした。
「さて、と…」
俺はペンを握り直し、羊皮紙の一番上に、大きくこう書き記した。
『アステル王国 SWOT分析』
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