出会い
こうして王に語る中で、私はこれまでのちょっと不思議な体験に思いを馳せた…
◆◇◆
「何このボロボロの小屋。」
霧の向こうにうっすらと見えた影の正体が、小さな小屋だとわかったとき、思わずため息と共にそんな言葉が溢れでた。
それほどまでにその小屋はみすぼらしく見えたのだから。これまでの冒険の努力には見合わないような気がしてならない。
柱が立派だけど、まともな壁がなくて、なんか、うん。屋根もいかにも古そう。瓦とか木材とかじゃないっぽい。私に知識がないから何でできてるかわからんけど。絶対雨漏りするじゃん。
やはり所詮は物語。ただの迷信。信じて冒険するなんて私がどうかしてるんだ。おかしいのは私、そう思い踵を返したその時。
「ひどいですねぇ〜、ボロ小屋だなんて。」
どこからか不思議な妖しさをはらんだ声が聞こえてきた。
足元は砂利。一歩だけ進んで足を止めてしまったので、砂利を踏む小さな音だけがやけに響いて静寂が広がる。
「この小屋は洗濯小屋ですよ。霧のさらに向こうに目を凝らすと、奥の建物が見えませんか?そこのお嬢さん。」
その静寂を切り裂くようにまたもや聞こえた声。その主は霧を指一本すら動かさずに消したように見えた。
見えただけ、だと信じたい。
霧で光が反射して、闇の世界がキラキラと輝く。その光を浴びた霧が意思を持ったかの様に掻き分けられて、道を作り、その人物のシルエットと声が段々と近づいてきた。
旧約聖書に、海を割る話があったような…
それもこんなふうだったのだろうか。
普段なら恐怖で足が動かないような光景だけど、驚きが一周回ってぼんやりと立っていることしかできなかった。
神話のことが頭に浮かぶ。神話や物語の世界が、目の前にある。
迷信じゃ、なかったかもしれない。
ネバーランド。“NEVER”land。
“決して存在しない”ではなくて、大人にならない、“終わらない”、夢の国だと。信じていた。
今目の前にあるのは魔法だ。奇跡だ。
物語の世界。ひょっとして、もしかして、私の家出は。
「ああ、申し遅れました。わたくし、魔法使いのシリルと申します。」
以後お見知り置きを、とにこやかに笑うその人を見て確信した。
私の家出は成功したのだと。
◆◇◆
肩までの白髪に、赤と青のオッドアイの厨二病が喜びそうなビジュアルと、傍に文字通り浮かんでいるティーカップ。服やカップの趣味はどこまでも品がある。
彼?彼女?は、暗闇にぼんやりと白い霧の漂う、モノクロで殺風景なこの空間にはあまりにも異質だった。
特にあの目。本当に原色の赤と青。
どちらも吸い込まれそうなほど深くて、鮮やかで、はっきりくっきりと煌めいているのに、
その瞳に映るはずの感情はぼんやりと濁っていて読み取れない。
絵の具をチューブからそのまま出したみたい。
いや、でもそれだとこの濁りはないか。
これが、魔法使い。
夢にまで見た魔法の世界での生活の第一歩を踏み出したのだ。
この日が私の家出生活の幕開けであった。
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