0009 デストロイヤーズの首領

 罠にかかって力技で解決したり、ドラゴンの炎に巻き込まれて髪が焦げたりといろいろありながらも、なんとか5階層までたどり着いたオレたち。


 ここまで登場したモンスターは全部倒したし、なかなかに見事な迷宮攻略だったと思う。


 驚いたことに、この地下迷宮ダンジョンは終わりが見えないほどに広かった。


 モンスターの発生しない空き部屋もあったし、上手く活用すれば地下ホテルとかに化けそうなポテンシャルを秘めている。


「それで、ラスボスがこいつってわけか。なんか凶暴そうなゴーレムだな」


「油断はできない。ゴーレムはタフだからね」


 オレとクリスの目の前にいるのは、巨大な猫型ゴーレム。

 オレたちの背丈の3倍くらいはありそうだ。


「大丈夫だろ。ここまで余裕だったし、大したことないって」


 そう言った矢先、ゴーレムに殴り飛ばされた。


 反応する暇なんてなかった。

 気づけば石の壁に激突していて、腰を砕き割るような激痛がオレを襲う。


「アキラ!」


「ごめん、めっちゃ油断してた」


 軽口を叩けるだけの元気はあった。ただ、吐血しているし、しばらくは動けなさそうだ。イレギュラーズの一員として恥ずかしいな。


 クリスは警戒を緩めることなくゴーレムに攻撃した。


 まずはクリスカリバーで一撃。


 最強の勇者ヒーローによる一撃も、ゴーレムの前では虚しく散る。


「僕の攻撃が通用しない……」


「今度は殴ってみたら?」


「了解!」


 オレの指示に素直に従い、オールバック・パンチを繰り出すクリス。


 かなり痛そうだった。見てられない……。

 冗談のつもりで言ったのに、本気で殴るとかやっぱアホだな。


 観戦しているとオレも回復してきて、クリスに加勢する。ゴーレムに打撃は通用しなさそうだし、攻撃手段を変える必要がありそうだ。


 魔術とか効くのかな?


女王様クイーンをお守りせねば。侵入者、近づかせない。女王様クイーンをお守りせねば。侵入者、近づかせない』


 ゴーレムが人間の言葉を話した。

 基本的に、ゴーレムには自分の意志がないとされている。魔術師が生み出し、命令を組み込む。プログラムに忠実なロボットだと思えばいい。


「ここは撤退だ。もしかしたらこの迷宮の女王様クイーンは、ゴーレムよりも危険な存在かもしれない」


「言えてるな。なんか癪だけど、戦略的撤退ってことにしよう」


 というわけで、オレたちは確実に地下迷宮ダンジョンを攻略するために、戦略的撤退・・・・・をした。




 イレギュラーズの仲間を集めるため、王都南部まで走る。

 クリスは空を飛び、オレは猛ダッシュ。


 一応忘れてはならないのが、オレも超人・・だということ。高速ダッシュでクリスの飛行速度にも追いつけるわけだ。


「アキラ君?」


 冒険者ギルドの近くまで来ると、シエナに遭遇した。

 ギルドへの用事はちょうど終わったらしい。


 クリスも空から降りてきた。


「僕はジャックを連れてくるよ」


 そう言って、また空に飛び立つ。オレも空を飛べる能力がほしいもんだ。ドライブ感覚で空飛びたい。


 もちろん、クリスに脇を抱えられながらの飛行は二度と御免ごめんだけど。


「ランランちゃんは?」


「あー、迷子」


 シエナが自分からランランのことを聞いてくるのは珍しい。


 クリスがいることは確認したから、気になるのもしかたないか。


 ランランが迷子になったと聞いて、そこまで驚く様子のないシエナ。それもそうか。いつものことだし。


「全員でさがさないといけないくらい深刻なの?」


 どうやら彼女は、オレたちがわざわざ呼び出しにきたことをランラン捜索のためだと思っているらしい。


 よく考えればランランを見つけることの方が優先だな。

 そもそも、ランランが地下迷宮ダンジョンにいるって決まったわけじゃないし。


「それが実は――」


 詳細を説明しようと口を開くと、市民の悲鳴が耳に入ってきた。


 何かから必死に逃げているのか、体当たりするほど夢中に走る市民もいる。


「なんだ?」


「あれ見て」


 シエナが指さす方向に、ヤツ・・はいた。


 猫型ゴーレムだ。

 オレたちが恋しくなって地上まで来たらしい。


 そもそも、北部にある地下迷宮ダンジョンから、南部の地上に来るってどういうことだよ? 地面を突き破ってきたってか?


 考えられる仮説としては、あの地下迷宮ダンジョンが地下で広範囲に拡張しているということだな。


 オレとクリスが力を合わせても勝てなかった相手が、王都の街中までやってきた。


 キングオーガの襲来とは比較にならないほどの、王都の脅威だ。

 悪いな、ケヴィン。


 市民の危機察知能力はさすがのもので、まだ誰もゴーレムに危害を加えられていない。暴れ出す前に逃げ出したらしい。


「あのゴーレムは古代文明のものだ」


 いつの間にかジャックがいた。


 彼は魔術の効果で飛ぶことができる。そして、今現在も1メートルくらいの高さに無表情で浮遊していた。


「僕が注意を引きつけるから、ジャックたちは遠距離から攻撃を繰り出してくれ」


「市民への被害を避けるため、むやみな刺激は避けろ。少なくとも、まだ暴れる気配はない」


 ジャックの言う通り、猫型ゴーレムは地上に出てきただけで、何もしていない。


 赤い宝石の目は光っているものの、思考停止しているかのように動かない。


「おやおや、イレギュラーズ集結か。いや……あの猫耳少女がいないが……トイレか?」


 今度は変な奴が冒険者ギルドから出てきた。


 もちろん、彼の正体は知っている。勇者パーティ、デストロイヤーズの首領リーダーロジャーだ。

 二つ名はルミナルシスト。光沢ルミナスとナルシストをかけたダサい名前である。


「好敵手のクリス殿ではないか。もしや、あの可愛らしいゴーレムに苦戦しているのかな?」


「ロジャー……」


 貴重な光景。

 クリスが呆れている。


「デストロイヤーズの首領リーダーであるボクの実力を見せてやろう。キミたちはそこで怯えているといい。もちろん、シエナ殿はどんな姿も美しいが」


 シエナはゴキブリでも見るような目でロジャーのことを見ている。

 なんか可哀想かわいそうだ。結構イケメンだし、結構強いのに。


 ここにクリスという超人金髪エルフがいると、ロジャーの存在感が一気に薄くなってしまう。


「あのゴーレムが攻撃してこないうちは、市民の避難の時間を稼ぐことを考え――」


「これはこれは魔術師ジャック殿。それはキミの恐れから来る、言い訳というものだよ」


 剣を抜き、ゴーレムに飛びかかるロジャー。


 あのアホのせいで、王都が無茶苦茶になる未来が予測できた。


 カコン、と。

 聖剣がゴーレムの肩に当たり、鈍い音を立てる。その光景はシュールだった。そして、王都の脅威ゴーレムが動き出す。


 ロジャーは攻撃に失敗してかなりの醜態を晒したのにも関わらず、華麗に着地し、シエナの前でかっこつけたポーズを決めた。


「あの馬鹿め」


 ジャックが罵り、相当ムカついたのかロジャーを爆破する。


 アホな別パーティの首領リーダーは王都の果てまで飛んでいった。


「ジャック、さすがにやりすぎだ」


 クリスは形式上注意したものの、絶妙な表情。

 本当はあのアホがいなくなってすっきりしたのかもしれない。


 まあ、クリスもアホなんだけどな。


「いきなり逃げやがったかと思えば、こんなところでぷかぷかして――」


「お前もうるさい」


 また爆発。


 今度は別の誰かだ。


「今のは?」


「あの馬鹿と同じ部類の女だ」


 ちらっと見えた真紅の髪。

 多分ヴァネッサだろう。彼女もまた、デストロイヤーズの一員メンバーだ。


「2人ともいい戦力になったかもしれないのに」


「俺たちが負けることなどない」


「頼もしいこと言ってくれるな」


 ジャックは自信満々らしい。


 とはいえ、残念なのことにロジャーのせいで猫型ゴーレムを刺激してしまった。問題はここからだ。


 猫型ゴーレムが暴れ出した。


「あのゴーレムは古代文明の伝説にある猫のゴーレムだ」


「見るからにそんな感じだ」


「弱点はあの赤い目だ。あのクリスタルが動力源になっている」


「おっと……答えはそんな簡単だったか」


 なんで目を狙おうと思わなかったんだろう。

 適当に体を攻撃してたからな。やっぱりオレもアホだなぁ。


「わかった。僕とジャックで敵の注意を引きつけ、アキラとシエナで確実に目を潰す。この作戦で行こう」


 クリスの合図で、ゴーレムとの戦闘が始まる。


 クリスとジャックが飛び上がり、ゴーレムの視線を奪う。

 攻撃をしないのは、その攻撃が流れて建物などに被害が出ないようするためだ。


 シエナは左目を、オレが右目を狙う。


 見事、一発だった。


 シエナガンから放たれた魔力の銃弾は左目にクリーンヒット。オレの手裏剣はカーブを描きながら右目をえぐる。

 そして――。


 猫型ゴーレムは動かなくなった。


「あっさりとした強敵との戦闘だったな」


「なんだか屈辱的だよ」


 クリスと頷き合う。


 とはいえ、またイレギュラーズによって街は救われた。そこにデストロイヤーズは何の影響も与えていない。


「ふわぁ~、あれ、みなさん! よかったです。やっと迷宮から出られました~」


 ゴーレムが出てきたはずの地面から、ランランが欠伸あくびと共に這い出てくる。


『ランラン様……迷宮の女王ダンジョン・クイーンは……あなた様……』


 最後の力を振り絞り、意味深なセリフを残す猫型ゴーレム。


「まさか……」


 ジャックが言葉を失っていた。

 何かに気づいたって感じだ。


「早く教えてくれ」


 そんな雰囲気出されたら余計に気になるので、急かしてみる。


「ランランは猫人族ネコール……あのゴーレムを創造したのは古代の賢人であり、猫人族ネコールの王族でもあったニャータだ」


猫人族ネコールにも賢い人っているんだな」


 ニャータって名前はいかにもアホっぽいのに。


「ニャータの血を引き継ぐ者が再び地下迷宮ダンジョンに足を踏み入れた時、新たなる迷宮の女王ダンジョン・クイーンが誕生する」


「「「「……」」」」


 つまり……もしかしてランランは……。


「ランランは猫人族ネコールの王族の末裔であり、新しい迷宮の支配者だ」


「ふぇ?」


 迷宮の支配者本人は、事の重大さが理解できず――ただにこにこしていた。

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