第2章 迷子の子猫がアホすぎて

0007 デート中の迷子

 今日はペットの猫とお散歩だ。


 空は快晴。

 散歩するには暑すぎるものの、可愛い飼い猫ペットのために我慢するしかない。


「アキラさん、なんでずっと袖を引っ張るんですか?」


「ランランが迷子にならないためだ」


「さすがのあたしでも、ただの散歩では迷子になりませんよ~。警戒しすぎです」


「目を離すとすぐに消えるからな。迷子になられると困るんだけど」


「だから、全然心配いらないですって~」


 猫のペットというのはランランのことだ。

 猫人族ネコールという種族のランランは、白い猫耳がガチでついているし、たまににゃーにゃー言ってるし、猫と認識するのは間違いじゃない。


 猫じゃらしで毎日遊んであげているのはオレだから、やっぱりランランの飼い主はオレなのだ。


 なんでランランとデートしているのか。


 その疑問の答えは1時間ほど前にさかのぼる。




「みなさーん、今日はどこか景色のいいところにお散歩に行きませんか?」


 朝食を取り終わり、グランドホールで今日何しようか考えていた時だ。


 ランランがわくわくした表情で走ってきた。


「――って、あれ? シエナさんとジャックさんがいませんね……トイレ?」


「2人は用事があってもう出ていったよ。シエナは冒険者ギルド、ジャックは魔術師ギルドまで行くそうだ」


 首をこてっと傾げるランランに対し、髪をセット中のクリスが答える。


 冒険者ギルドと魔術師ギルドは王都の南部にある。

 王都自体、そこまで広いというわけじゃないので遠くはないが、平均的な馬車で1時間くらいはかかる距離。


 ジャックはたまに魔術師ギルドに顔を見せているらしいけど、シエナは今回初めて呼び出された。


 なんかやらかしたのかな。

 シエナに限ってそんなことは……ないとも言えないのがこのアホパーティのメンバーなのであった。


「そうなんですか……みんなで行きたかったので残念です。でも、3人で行きませんか? ルーン神殿の近くに、すごくいいスポットがあるらしいんですよ」


「ルーン神殿ならそんなに遠くないし、行ってもいいぞ」


「アキラさんは絶対です。あたしの飼い主ですし」


「最初から拒否権はなかったのか。そりゃあ嬉しいな」


 まあ、そうだろうなとは思った。


 ランランは初めて会った時から、オレのことを特別気に入っている。

 彼女を拾ったのはオレとクリスの2人だったわけだけど……金髪オールバック赤マントよりは親近感が持てたんだろうなと勝手に解釈していた。


「実は僕もルーン神殿が気になっていたんだ。あの一帯は、かつて古代文明が栄えていたとかいう伝説もあるくらいだからね」


「へぇ。そうなんだ」


 悪いけど歴史には詳しくない。

 まだこの世界にやってきて3年だし、周囲の国や街を知るので精一杯だった。


「そうと決まれば行きましょう! 朝から楽しみでわくわくなんですよ~」


 勢いよくホールの扉を開けるランラン。


 まずい。

 このままだと迷子になっちゃうぞ、この


「少し待ってくれないかい? 髪のセットがまだで――」


「先に行って待ってますね。行きますよ、アキラさん」


 ランランに手を引かれ、外に出る。このままついていかないと絶対迷子になるしな。




 こういうわけで、クリスをおいて2人だけの散歩になった。


 どうせすぐ追いつくだろうし、問題はない。

 今はただ、いろいろとお騒がせなランランを監視することが大切だ。


 イレギュラーズの問題児、ランラン。


 ゆるふわっとしたピンク色の髪に、ぴょこんと飛び出たアホ毛。

 身長はだいたい150センチくらいと小柄で、いつも肉球を再現した手袋グローブを着用している。


 天然キャラで可愛い魅力もたくさんあるが、やっぱり彼女はイレギュラーズで1番のアホなのだ。


「ここからだと神殿とお城の両方が見えて綺麗ですね!」


 ルーン神殿はマグノ・ボケリア城より少し北に位置する、王都最大の神殿だ。


 王国の主神であるスぺイゴール様を祀った神殿で、白の柱に囲まれた巨大な建造物。

 隣には自由の女神みたいな主神の銅像があり、その前で両手を合わせて祈るのがメジャーだ。


 オレとランランがいるのは、ルーン神殿の裏に広がる綺麗な丘。


 地面に並んで腰掛け、神殿と城が見える贅沢な景色を楽しんでいる。

 ランランは景色を楽しんだり、劇を見たりするのが好きなので、これまでも頻繁に散歩に付き合わされていた。


 いつもは他のメンバーも誘って3人で行ったり、全員で行ったりって感じ。

 2人きりは久しぶりだな。ランランが迷子になった時の責任を負いたくない身としては、内心ヒヤヒヤしている。


「アキラさんってよく瞑想してますよね? この丘、瞑想にぴったりな気がしませんか?」


「言われてみれば確かに」


「瞑想しましょうよ! あたしも最近、瞑想の極意について学んでるんです~」


 その言葉が本当かはわからない。

 多分適当に言ってるんだろうけど、瞑想に興味を持ってくれているのは純粋に嬉しかった。


 忍者にとっては瞑想って結構大事だ。

 毎日やっていたおかげでこの超能力が手に入ったわけだし、初心に返るのも悪くないな。


「それじゃあ、手を繋いで瞑想をしよう」


「え、そんな瞑想もあるんですか?」


「ランランが瞑想の途中で迷子になるかもしれないだろ。ちょっとでも目を離したらいなくなるし、こうして捕まえておく方が楽だからな」


「あたし、そこまで信用されてないんですね……」


 ランランのぷにぷにとした肉球手袋グローブを握り、瞑想を始める。


 風がすーっと通り過ぎ、心が安らいでいくのを感じた。

 このまま30分くらいは瞑想だな。内なる自分と向き合い、力の源を感じ……。


 約30分後。


 目を開けると、ランランがいなかった。


 肉球手袋グローブからするりと手を抜き、消えたのだ。


 構ってほしくてわざとやってるのか。何度もそう疑うことはあった。でも結局、彼女は本気だった。


「はぁ。縛りつけておくべきだったな」


 丘の近くを歩き回り、ランランがいそうな場所を探っていく。


 しばらく歩いていると、木々に隠れた不気味な場所に辿り着いた。

 うん、ここに迷い込んだんだな。しかも、なにやら地下迷宮の入り口のような、古代文字の印を見つけてしまった。


 しかも、動かされたような痕跡がある。

 ランランでほぼ間違いなさそうだ。


 ここでの問題は、単独ソロで潜るべきかクリスを連れてくるべきか。古代文字っぽいのがあるし、なんかヤバそうだし、正直1人で潜るのは怖い。


「クリスを連れてこよう!」


 ていうか、髪のセットに時間かかりすぎだろ。この前もっと大事なものがあるとか言ってたような気がするんだけど。




 ***




「それは企業秘密です。教えられません」


「そこをなんとか……!」


 冒険者ギルドに呼び出されていたシエナは、カウンターの奥のバックヤードでギルドマスターと向き合っていた。


 体格のいい巨漢のギルドマスターが、シエナに頭を下げている。


「頼む! シエナガンの技術で冒険者業界が盛り上がるんだ!」


「悪い人に技術が渡るかもしれませんし、そこは譲れません」


 呼び出しの内容はシエナガンについてだった。


 魔力の銃弾を撃ち出すという特殊な飛び道具の出現は、全世界の注目の的。冒険者ギルドとしては、なんとしてでも手に入れたいところ。


 しかし、シエナはノーの一点張りで話し合いにもなっていない。

 どんなに破格な条件を提示されたとしても、譲るつもりはなかった。


「……よし、これはどうだ。面白い情報をやろう。ルーン神殿一帯に隠された古代文明の特別リークだ。あそこには猫人族ネコールの支配を待つ伝説の地下迷宮ダンジョンがあって――」


「興味ありません」


 冷たい表情で、一言。


「氷のお姫様プリンセスって二つ名でもいいくらいだぜ、まったく」


 さすがのギルドマスターも、諦めるしかなかった。




「ボケリア王国の地下迷宮ダンジョン伝説……」


 ジャックは魔術関連の書籍を求めて、よく魔術師ギルドに足を運ぶ。


 今日偶然にも彼が手に取ったのは、アキラが足を踏み入れようとしている、伝説の・・・地下迷宮ダンジョンについての書籍だった……。

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