2人目

 続いて俺は思いっきり胸倉を掴まれる。


 「お前はなんで周りを頼らないんだ!あの時も!どうして……どうして私達だけを逃がしたんだ……!なんで逃がしてくれたんだよ!そりゃ任務だし……命令だし……仕事だし……まだまだ信用できないのかもしれないけどッ……!自分だけで背負おうとするなよ!もうちょっと、もう少しだけでいいから私達を頼ってくれよッ……!私はお前に頼られて……嬉しかったんだよ!あんな魔術を使える凄いやつに頼られて……」


 レジーナは目から大粒の涙を流し、泣いていた。たった……たった1回、任務で一緒になっただけなのに……レジーナは優しいんだ。人に簡単に感情移入してしまう。もしかしたらあの時レジーナは無力感に苛まれていたのかもしれない。だとすると俺は、自分のことばかりで他人を想うことが出来ていなかった。なんでレジーナが一緒に戦うと言ってくれたのか、俺は分かっていなかった。


 「だから……私も戦う。戦わせろ!私は勝つ!」


 レジーナは俺の胸倉から手を離した。


 「分かった……これからはお前のこと、みんなのこと、ちゃんと頼るよ。いや……頼らせてくれ」

 「それで……どうなんだ?」

 「え……?」


 決意を固めた俺だけども、どうなんだ?と突拍子もなく聞かれてもなんのことかは分からない。


 「戦えるのか?」

 「……!ああ!行くぞ!」

 「私も行かせてもらうわね」


 不意に背筋へ悪寒が走った。この声はッ……!

 2人目…………!。気付いたころにはもうエージェントによって繰り出されていた正確無比な横なぎの一閃__。俺はレジーナの魔術によって上空へと回避していた。横なぎの一閃と気づいたのはエージェントを見下げたその時だ。


 「やっぱり早いわねあなた。そして4日ぶりかしら?今度は逃がさないわ」


 すぐにエージェントは同高度まで追って来た。今回も純白の翼に名前の通り過ぎる大剣を持っている。なるほど__、白いコートの男にエージェントの2人がかり……あいつらとはそういうことか。

 だがそれにしても……流石に封印解除からの襲撃が早すぎる。どういうことだ?


 「シャバナ……こいつは私が引き受ける。お前は白いコートの奴を頼む」


 レジーナの言葉は怒りと僅かな後悔で満ちていた。きっとその怒りの矛先はあの時みすみす逃げてしまった自分自身に向いているのだろう。


 「あら、私も随分と安く見られたものね。尻尾を巻いて逃げた癖に、どうも今回はやる気みたいね。見たところあなたも契約者みたいだけど、私に勝てるとは思わない方がいいわよ。それに……」

 「僕を無視しないでくださいよ……まったくイライラする」

 「こいつも無視されてかなりお怒りの様だしね」


 レジーナの真横にはいつの間にか白いローブの男がその手に魔力を溜めて迫って来ていた。この地上からの距離を跳び上がったのか!?速いッ!速すぎる!


 「レジーナ!俺ごと吹き飛ばせ!」

 「天魔裂衝撃パラディインパクト


 コートの男が魔術を放つその瞬間、俺の体が吹き飛ばされコートの男に激突する。そのままの勢いで俺達2人は揉みくちゃになりながら砂浜へと落下する。

 俺は……!レジーナを信用する!信頼する!頼りかかる!


 「レジーナ!頼んだぞおおおお!!!!」

 「ッああ!任せろ!」

 「小汚い。離れてくださいっよ!」


 俺は両脚で踏みつけられるようにして砂浜へ蹴り落とされた__。体に鈍い衝撃が走る。下が砂浜で衝撃が軽減されたのは幸運だった。

 違う!痛さに悶えている場合じゃあない!立ち上がれ!


 「やれやれです。服が汚れてしまった。まああの女はエージェントに任せることとしましょうかね」


 コートの男はすらりと砂浜に着地して言った。


 「……お前は誰だ?」


 武器は……隠し持っている様子はないな。いや、あの時の様にどこからか出してくるかもしれない。だけど様子を見る限り魔術をメインにした戦い方をしてくるはずだ。


 「僕は神の代理人、見通す者アイスタントです。神はあなたを本格的な脅威と判断しました。今のうちにあなたを殺します」


 やはり神の代理人か。早くこいつを片付けてレジーナのところへ……。いや、任せると決めただろう俺は目の前のアイスタントだけに集中するんだ。


 「そりゃどうもだね。俺も腕試しと行こうか!」


 封印が解かれたヤタ神様本来の力!見せつけてやろうじゃないか!


 「極切断ヘルスライス!」


 魔力で形成した刃がアイスタントへと向かう……まずは手慣らしだ。これで倒せるなんて思っていないが、どう出るか……


 「なかなか早いですね。しかし……」


 アイスタントはほんの少し体を右にずらすだけでそれを避けきった。


 「ほら、当たりません。僕には全てが見えていますから」

 「なっ……」


 あまりにも簡単に見切られてしまった。まさか……。


 「シャバナ何をやっているんだ!吾輩の魔力を、魔術式を感知しろ!」

 「んなこと言われても……」


 腕試しとは言ったものの、まったく変わったような感じがしない。まだ体が力に慣れてないんだ。本来の力を発揮できていない。それでも多分、体に不調が出てないだけいい方だ。


 「……?これで終わりですか?じゃあ今度は僕から行かせてもらいますね。あなたを早く殺してへっぽこエージェントへ助太刀するとしましょう」


 アイスタントは両手を広げた。__来る!



 

 


 


 

 


 

 


 


 


 


 


 


 


 


 

 

 




 

 



 


 



 


 

 


 

 


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る