革命集団レブルズ編

逆探知

 「まっ……待ってくれ!悪かった!親父に無理やり連れてこられたんだよ!本意じゃなかった!わかってくれないか?」


 バーンはみじめったらしく命乞いを始めた。バーンの目は見たことがあった。あの日、兵士たちから逃げ回っていた子供の目だ。


 「お前は島の人たちの命乞いは聞かなかったのになんで俺が聞く必要があるんだ?」


 こいつは今、命の危機を感じている____あの時の母さんと父さんもそうだった。それでも二人は戦う力なんてないのに、俺が逃げる時間を稼ぐためにバーンに立ち向かっていった。愛する息子を守るために立ち向かってくれた。


 「わかった!待ってくれあの日島にいた貴族たちの名前なら全員言える!どうだ!いい情報だろう?……俺もお前の復讐に協力する!だから殺すのはやめてくれ!!」


 だがそんな二人の命はたった一振りの剣でいともたやすく切り捨てられた。


 「お前だけは絶対に直接俺の手で殺したかった……それがまず一番の復讐だ。だから俺の復讐に協力するならさっさと死んでくれ」


 逃げるとき母さんの瞳に移った俺の顔が今、死の恐怖に怯えているバーンの顔に重なった。


 「お前は地獄行きだ。特等席を用意してある。先に行って待ってろ。あとからお前の仲間も……俺も行くさ」


 ここで人を殺したら、俺はもう戻れない……人を笑顔で殺していたこいつら貴族たちと同じところに落ちるんだ。実際、もう俺はすでに今この瞬間、高揚感を覚えている。人を殺して笑っていたこのゴミクズ共とすでに同レベルだ。


 本当にいいのか?……いや____


 違うだろ!もうそんなことを考える道にはいない!俺は今までにない笑顔を浮かべ、笑ってやった。いいさ!もうすでに戻れないとこまできてるんだ。最後まで行ってやろうじゃないか!


 「喰らえ、災厄の人形カタストロフマシン


 「やめっ__」


 バーンの言葉を最後まで聞くことはなかった。魔術によって地面から隆起した巨大な手がバーンの頭を握りつぶしたからだ。ぐしゃりと頭蓋骨が潰れる音が洞窟内に響き、真っ赤な鮮血が辺りに飛び散る。意志を失ったバーンの体は、その場に力なく倒れこんだ。


 「ハハハハハ!!!やったぞ!!遂に!ハハハハハハハ!!!」


 俺は高らかに笑った。


 「ハハハハハハハハハハハ!!!!このクソ野郎を遂にやってやったんだ!ハハハハハハハ!!!」


 俺はしばらく笑い続けた。ひたすらに笑い続けた。多分、俺は達成感と何かで少々おかしくなっていたのだと思う。だがそうしてしばらく笑ったのち、首なしバーンの死体を魔術で洞窟上層部に返してから俺は気づいたのだ。


 「真っ赤だ……」


 洞窟内に飛び散った血はそう真っ赤だ。真っ赤である。あの日見た血の色と同じ、真っ赤な鮮血である。


 なにも変わらないのだ。笑顔で人を殺すやつの血だ、どんな色をしているかと思ったが何も変わらなかった。結局俺たちは同じ人間なんだ。俺は貴族のクソ野郎を殺したのではなくて一人の人間を殺したのだ。


 「ははっ……俺もこのクソ貴族と本質的には変わらないのかもな……」


 達成感はあるはずなのに、どこか虚しい。


 『復讐なんてしても虚しいだけ』とはよく言ったものだな。こんなんじゃ先が思いやられてしまう________いや!やられるな!

 

 俺は復讐もするしこの国も変える。今はただそれだけでいい。


 「やっと一人だ。みんな……見ていてくれ……」


 そうだそれでいい。こんなとこで葛藤なんてしてる暇はない。


 「閑話休題それはそうとて……」


 実はバーンが拘束した辺りから気づいていたことがある。


 「誰かは知らないが……見ているな!?」


 誰かに見られているのだ。だからわざとバーンの剣を魔術で受け止め、ちょっと強さを見せつけてやろうかと思ったのだが____(これは今思えば完全に調子に乗っていた。そんなことなどする必要はなかったし、反省しなければならない)多分、というか絶対に監視していたのは俺じゃなくバーンの方である。貴族なのだから命を狙われたり監視される理由は山ほどある。


 バーンが深層にワープしたにも関わらず監視は続いたことから、召喚獣とかによる視界共有の魔術ではなく、直接体にマーキングしてそのマーキングした場所を見る魔術だろう。


 「バーンが剣で切りかかった時にマーキングを俺に移したな?そんなこともできるなんて随分と器用だな」

 

 剣が触れた右腕を中心に軽く探って見たがなにも見当たらない。マーキングは不可視であると見ていいだろう。ともかくなんとかしないとまずい。騎士団にでも報告されてしまったら今後の計画が全て水泡に帰してしまう。


 「この系統の魔術にはリスクがあるの……知ってるよな?」


 神経を研ぎ澄ませ、自分の魔力を抑えるんだ。右腕以外の感覚を消せ……そうだ今俺は右腕が全てだ。俺が右腕であり、右腕が俺だ………………


 これじゃない……もっと奥に潜れ……深層心理は感じているはずだ……違………もっと……奥の__掴んだぞ!微かに感じる魔力のざわつき!


 俺はその感触を感じながら静かに息を吐いた。


 「今___向かう」



 


 


 


 


 

 


 


 

 


 





 

 

 

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