第5話 日葵の決意
「起きな、朝だよ」
まだ眠い、と返事をするよりも先に、お姉ちゃんは強引に私の布団をはぎ取った。真冬にこんなことをされたら、すぐに目が覚めるに決まっている。
「ちょ、さすがに容赦なさすぎ……!」
「おはよ、日葵」
背筋をピンと伸ばして立つお姉ちゃんは、既に部活のジャージに着替え終わっていた。枕元のスマホで時間を確認すると午前五時。いつもならまだ五時間は眠っている。
「……おはよう」
もうちょっと遅くてよかったのに、とは思うけれど、起こしてくれた姉に文句を言うわけにもいかない。気合を入れて立ち上がり、洗面所へ向かった。
「何時くらいなら、行っても失礼にならないかな」
月乃が起きる前に話はしたいけれど、迷惑をかけるのは避けたい。
六時半以降であれば、ぎりぎり許されるだろうか。
なんてことを考えつつ身支度を整える。今日も昨日と同じサイドテールにして、気合を入れるためにいつもよりしっかりとメイクをしてみた。
◆
「……あっ!」
幸運なことに、おばあさんは家の外で掃き掃除をしていた。目が合った瞬間、家の中に戻ろうとしたのを呼び止める。
月乃が起きる前に、できれば外で話がしたい。
「聞きたいことがあって。寒いですけど、ちょっとだけここでお話できませんか?」
「私は構わないけど……」
「よかった! あ、これカイロです。まだあったかいので、よかったらどうぞ!」
コートのポケットからカイロを取り出し、押しつけるようにおばあさんへ渡す。
「ありがとう。……話って、月乃のことよね」
「はい。いろいろ、おばあさんにもお話を聞けたらと思って……っていうか、おばあさんって呼び方もあれですよね。名前聞いてもいいですか?」
「
「じゃあ、芳江さんって呼びますね!」
芳江さんはかなり年をとっていることを差し引いても、あまり月乃に顔は似ていない。
だけど、纏う雰囲気というか、ちょっとした仕草からは血の繋がりを感じる。
「……あの子と会うのは、ずいぶんと久しぶりなの」
重々しい口調で、芳江さんはゆっくりと喋り始めた。
「東京に行ってしばらくの間、あの子と……あの子の母親と連絡がとれなくて。この前、ようやく連絡がとれたのよ」
「……はい」
「お金貸して、が母親の第一声だったわね」
はあ、と芳江さんは深い溜息を吐いた。こんな時、どんな顔をすればいいのか分からない。
家族仲が悪い人がいることも、お金に困っている人がいることも知っている。だけどそれはあくまでも知識としての話で、私はそういうことに無縁の人生を送ってきたから。
「私はね、ずっと月乃に会わせてもらえなかったの。お金を貸せば月乃を貸してあげるって、物みたいに言われた。そんなことを言う母親の元に、月乃を置いておけなくて」
いつの間にか、芳江さんの瞳には涙がたまっていた。
「だけど私も、今の月乃のことは全然分からないの。でも小さい頃、貴女と仲良くしていたことを思い出して……」
私の手をぎゅっと握って、芳江さんは静かに泣き続けた。とりあえず、そっと背中を撫でてみる。
月乃のお母さんのことは、あんまり覚えていない。
遊ぶのはいつも私の家だったし、月乃のお母さんは学校行事にもあまり顔を出さなかったから。
今考えてみれば、月乃の家庭には昔から問題があったのかもしれない。
いろいろきつい思いをしたんだろうな……。
月乃がこんなに変わっちゃったのも、そのせいかもしれない。
「芳江さん」
「……ごめんなさいね、泣いたりして」
「いえ。話してくれてありがとうございます。それから、私に任せてください」
にっこりと笑って、胸を叩いてみせる。芳江さんは目を大きく見開いて、何度かまばたきを繰り返した。
「月乃のことは、私が絶対に幸せにしてみせますから!」
会えない間、私は月乃になにもしてあげられなかった。きっと月乃は苦しんでいたのに。
だけど今は違う。私は今月乃の傍にいる。話を聞くことも、抱き締めることも、一緒に遊ぶこともできる。
私が絶対、月乃の笑顔を取り戻す。
そして、改めて月乃に言うのだ。
―――絶対、結婚しよう、って!
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